北村薫「リセット」☆☆☆
「時と人」という主題で北村薫が発表した三部作の最後の作品です。
三部作と言ってもそれぞれ独立した作品で繋がりは全くありません。
17歳の女子高校生がある日目覚めると42歳の高校教師になっていたという、時を超えた女性の物語「スキップ」、交通事故で植物人間になった版画家の女性が落ちた同じ一日をループする世界を描いた「ターン」、そしてこの「リセット」のテーマはリーインカーネイションと言う事になります。
前2作がとんでもない事態に遭遇しても前向きに生きる女性を描いて、ある意味分かりやすい作品だったのに比べると、この作品は地味で落ち着いた雰囲気の中で物語が進みます。
この作品はあらすじを書くと興を削ぐと思います。
多分何も知らずに読んだ方が感動が深いはずです。
第一部は太平洋戦争に入る直前から終戦の少し前までを舞台にして、当時の少し豊かな家庭で暮らす普通の女学生の日々が主人公・水原真澄の一人称で綴られています。
直木賞を受賞した「鷺と雪」と同じような時代背景で、何となく作品の雰囲気にも似た感じを受けますね。
そういう厳しい時代を背景に描かれた真澄と彼女が思慕する青年・修一とのストイックな恋が描かれています。
そして物語は、終戦後に一人で貸本屋を営む真澄の元に近所のわんぱくな小学生が現れる場面から再開されます。
しみじみと心に染みていくような純真で、一途で、不思議な愛の物語が、静かに展開されていきます。とても美しい物語です。
面白い小説は沢山ありますけど、美しいと思える小説というのは案外と少ないのではないでしょうか。
この小説はそんな作品です。