北村薫「スキップ」☆☆☆
「時と人」というテーマの3部作の最初の作品で、期待にたがわず面白い作品でした。
荒筋だけ読むと何となくSF・ファンタジィっぽい雰囲気の作品かと思いますけど、どちらかと言えば優等生的な青春物語という印象の作品です。
北村薫の作品に登場する主人公の生き方には、この作品もそうですが格調高いものを感じることが多いですね。
17歳の女子校生の「私」一ノ瀬真理子は、運動会が中止になった夕方に音楽を聴きながら眠ってしまい、目が覚めると42歳の高校教師になっていた。
見覚えはないが、夫も娘もいるようだ。
どうした訳か、25年の歳月をスキップしてしまったらしい。さて、これからどうすれば良いのか・・・
SF小説では過去に戻ってしまう話(グリムウッドの「リプレイ」の様な)はよくありますが、近未来に行く話は案外と少ないかなと思いますけど、しかしこれって普通に考えれば記憶喪失なんですよね。
でも確かに当人にとっては、その間の記憶が全くないということはタイムスリップしたのと同じです。
フレドリック・ブラウンが同様のテーマのショート・ショート(「未来世界から来た男」に収録)を書いていて、その作品を読んだ時に何気に恐ろしい話で気の毒に思った記憶が有ります。
普通だったら、17才の少女が気がついたら中年のオバサンになっていたとしたら、その現実を受け入れられたとしても相当取り乱しますよね。
しかしこの小説の主人公は、失われた時間を嘆きはしても、あくまでも前向きです。
そこが素晴らしい。
彼女は優等生すぎると思うけど、そういう前を向いた姿勢は人が生きていく上で大切な事なのだと思います。
真直ぐな考え方の純粋な人間が、真剣にしかも楽しく生きていく有様を描いて、読者に感動を与えてくれる名作だと思います。