北村薫「鷺と雪」☆☆
第141回(平成21年/2009年上半期)の直木賞受賞作品です。
北村薫さんが直木賞・・・今更?という印象を受けた作品。
昭和の初期を舞台にして社長令嬢と女性運転手が活躍する、「ベッキーさん」シリーズの完結作になります。
ドッペルベンガーの話から突如屋敷から消えていった学者肌の子爵の謎を解く話「不在の父」、少年はなぜ深夜に上野の博物館まで出向いたのかという謎を解く「獅子と地下鉄」、そして日本に居ないはずの婚約者が写真に写っていた謎を解明する表題作の3作が収録されています。
大正の雰囲気がまだ残るゆったりとした景色から、動乱の時代に移り始めた日本の姿を、上流階級の裕福な家庭で育つ女子学生の目で捉えたこのシリーズには独特の雰囲気が感じられます。
しかも時代を見据える力があったとしても時代に流されざるを得ない個人を描いて、なかなか感銘深いものがありました。
「ベッキーさん」シリーズ全体を通してみれば、前2作の方がミステリィとして整っていて良いような気もしますけど、この作品ではいよいよ戦争の影が濃くなってきた日本をさりげなく描き、物語に奥行きがあるように思います。
どこかノスタルジーを感じさせるシリーズが管理人は好きでしたので、この作品で終わるのは少々残念です。