北村薫「ターン」☆☆

ターン

「時と人」三部作の2作目の作品です。

このシリーズは「スキップ」「ターン」「リセット」と続きますが、それぞれが独立した作品で相互の繋がりは全くありません。


29歳の版画家・森真希は軽自動車を運転中に交通事故に会い、病院の一室で寝たきりの植物人間になってしまう。

しかし彼女の意識は不思議な世界で生きていた。

真希は自宅の座椅子で目を覚ます。そして誰も住んでいない世界で一日を過ごし、決まった時間が来ると時間が巻き戻り、同じ日の同じ時刻にまた自宅の座椅子で目覚める。

そこは真希以外の人間は存在せず、彼女が交通事故で意識をなくした一日を繰り返すだけの世界だった。

しかしそんな日々が続いても、真希は普段と変わらない生活をするように心がける。

そんな真希のところに、ある時突然電話がかかって来た。

それは真希に仕事を依頼したいと考えたイラストレーター泉洋平からの、現実世界と真希の世界をつなぐ奇跡の電話だった。

植物人間となった真希の中にだけ存在するはずのモノトーンの単調な世界で、運命を甘受しながらも普段の自分を失わずに毅然として生きている真希と、電話越しに会話を交わす洋平との不思議な運命の糸。

しかし電話越しの2つの世界をつなぐのはお互いの声だけで、真希には洋平の声は聞こえるけど、洋平の近くにいるはずの母親の声も、現実世界のラジオの音も聞こえてこない。

そして物語は、その洋平との糸を通して真希が蘇るまでの話になります。


作者もあとがきで書いているように、物語の時間軸に納得できないものがあって、それが大切な部分なだけに少し(というか、かなり)残念です。

でも人間の愛と死をテーマにしたこの作品の価値は、別の次元にあるように思います。

主人公の森真希は、北村薫の描くヒロインたちの特徴であるブレがない生き方をして、毅然として誇り高く感情移入しやすい女性です。

彼女をサポートする泉洋平も何となく茫洋とした印象でありながら、やさしく落ち着いて好感の持てる人物で、その二人の数奇な運命と不思議な形で交差する世界での交流が心地良い作品で、管理人は何度も読み返してしまいます。


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