トマス・ハリス「レッド・ドラゴン」☆☆☆
アメリカ中を震撼させている満月の夜に起る猟奇連続殺人事件。犯人は明らかに精神異常者だが、その犯人像が掴めない。
FBIアカデミーの教官ウィル・グレアムは、かつて自分の手で逮捕した殺人狂で天才精神科医の「人食い」ハンニバルことハンニバル・レクター博士に助言を請うため、彼が収監されている施設へと赴いた。
異常な殺人鬼でありながら今でも学術誌に論文を寄稿しているレクター博士は、グレアムに小さな助言を与える。
しかしこの連続殺人を実行している犯人ダラハイドは、レクター博士に心酔し彼と手紙による交流を続けている男だった。
ウィリアム・ブレイクの水彩画「巨大な赤い龍と太陽の衣をまとった女」の中の「赤き竜」と自分と同一視して、コンプレックスを持つ自分もいつかは竜になれると信じて猟奇連続殺人を続けるダラハイドと、ダラハイドを利用してグレアムを陥れようとするレクター博士。
そうした中でグレアムはダラハイドの足跡を追う。
「羊たちの沈黙」や「ハンニバル」など著者のベストセラー・サイコ・サスペンスの主要人物で、天才精神科医でありながら異常な殺人鬼でもあるハンニバル・レクター博士が登場する最初の作品です。
殆ど超人といった様子を見せる後の作品と違って、この作品のハンニバルはもっと普通の殺人鬼っぽくて、それだけに不気味な存在感があって、サイコ・サスペンスとしてはハンニバル・シリーズの中でこの作品が一番リアルで迫力があるように思います。
殺人を続ける精神異常者ダラハイドの思考や行動も鬼気迫るものがありますが、ダラハイドをそういう状況に追い込むレクター博士の異常性が際立っています。
レクター博士に惑わされ、精神的に憔悴し追い詰められながらも、ダラハイドに迫るグレアムの姿に光を感じます。
すごいサイコ・サスペンスです。