横溝正史「獄門島」☆☆☆

獄門島

終戦から1年が過ぎたある日、引き揚げ船で死んだ戦友・鬼頭千万太からの依頼を受けた探偵・金田一耕助は、千万太の故郷である瀬戸内海に浮かぶ小さな島「獄門島」へと向かった。

この島の名家鬼頭家の跡取り息子だった千万太は、死ぬ直前に「俺が生きて帰らなければ、3人の妹達が殺される」と金田一耕助に語った。

耕助が鬼頭家で出会った千万太の3人の美しい妹たちは、どこか普通でないように見受けられる。

千万太の遺言を気にする金田一耕助は、島民の菩提寺となっている千光寺に宿泊するが、そこで鬼頭家の先代が書いた3首の俳句屏風を目にする。

3首は松尾芭蕉の「むざんやな冑の下のきりぎりす」「一つ家に遊女も寝たり萩と月」、そして宝井其角の「鶯の身をさかさまに初音かな」だったが、千万太の葬儀が行われた後、其角の俳句をなぞったかのように梅の古木から逆さまにされた末の妹花子の死体が発見され、ついに凄惨な連続殺人事件の幕が上がる。

俳句の描写通りに行われる連続殺人。古い因習に囚われた孤島。名家の跡目相続争いなど、日本的な怨念渦巻く状況を背景にして描かれた推理小説で、管理人は高校生の頃に読みましたが、こんな推理小説が日本にもあったんだと驚き感動しました。

管理人が横溝正史作品で最初に読んだのは「悪魔が来りて笛を吹く」でしたが、この小説が舞台設定も雰囲気も江戸川乱歩の作品にどこか似ているように感じていたので、管理人は横溝正史のことを日本推理小説界の巨人の二番煎じの作家だという風に思っていたため、予想外の面白さに本当に驚きました。

マザーグースの童謡の歌詞のように起る殺人事件を描いた推理小説が、エラリー・クイーンやヴァン・ダインなどの作品の中にありますが、同じような設定で尚且つ日本的な情緒があるこの作品を読んで、横溝正史作品を改めて読み返したことを思い出します。

その後、角川で横溝作品が次々と映画化され、普通の人も横溝正史に触れる機会が増えましたが、作品全体のドロドロした雰囲気と緻密なロジックで、この「獄門島」が横溝正史のベストではないかと管理人は思っています。


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