リチャード・ドイッチ「13時間前の未来」☆☆
若くして成功を収めたニックは、弁護士をしている最愛の妻ジュリアと些細な事でケンカをした。
ジュリアは怒ったまま職場に向かい、ニックは家に閉じこもってジュリアから何度かかかって来た電話にも出ないで仕事を続けた。
そして夕刻になり、部屋を出たニックが見たのは、無残な状態のジュリアの射殺体だった。
凶器となった銃がニックのクルマのトランクから発見された事で、駆けつけた刑事はニックをジュリア殺害の容疑者として逮捕した。
折しも町は200人以上の犠牲者を出した旅客機の墜落事故で大混乱し、警察署にはあまり人がいない。
取調室から刑事が退出したその時、ニックの前に白髪の男性が突然現れ、ニックにはジュリアを取り戻す時間が12時間あると告げて、曰く有りげな懐中時計と手紙を渡して立ち去った。
その懐中時計には所有者を過去につれ戻す不思議な力があった。
10時になると8時に戻り9時までその世界に居て、9時になると7時に戻って8時までの時間を生きられる。この時計の力を得てニックはジュリアを救うために事件の謎を追うのだが・・・。
なかなかユニークな設定のタイムトラベル・ミステリィです。
何故ジュリアが殺されたのか、ニックが一人閉じこもっていた時に何があったのか、現在から過去に戻って謎が明らかになっていきます。
1時間毎にニックに訪れるピンチ。ジュリアを救おうと奮闘するものの思ったようには行かず、ニックの心が揺れるという緊迫感のあるサスペンスに仕上がっていると思います。
また、主人公の夫婦が経済的な成功を求めすぎて、家庭的な幸せを置き去りして来たことに対する悔恨が語られ、人生をどう生きるべきかというようなテーマも込められているようです。
ただ残念なことに、こういうタイムトラベル話は論理が精緻に組み立てられていないと、ただの与太話になってしまいます。
この作品は突っ込みたくなるところが多くて、素直に作品の中にはいりこめませんでした。
特にオリジナルの時間帯では鍵を持ったまま死んだはずのポール・・・。そもそもが成り立たない物語じゃないでしょうか・・・。
素材は面白いのになぁ。