リンダ・ハワード「天使は涙を流さない」☆☆

天使は涙を流さない

麻薬密売組織のボスの愛人ドレアは、ファッションや宝石や買い物にしか興味がない頭の弱いセクシー美女を演じて生きてきた。

いつか自分が飽きられた時は捨てられる。その瞬間を出来るだけ先に伸ばして、貯めるだけ貯めておく。そのためには本性を隠してバカだと思われるしかない。

用心に用心を重ねて生きてきたドレアだったが、ある日ボスが雇った非情な暗殺者サイモンが、10万ドルの報酬の代わりにドレアとの一度限りの情事を望む。

サイモンはドレアが見ているだけで恐怖に襲われるような冷徹な暗殺者だったが、どうしてもサイモンの力を必要とするボスは、その要求を受け入れてドレアを差し出す。

「乱暴なことはしない」、人を殺すことを何とも思っていない非人間的な暗殺者サイモンだったが、彼がドレアに触れる仕草は限りなく優しく、今までの男の誰よりも繊細でドレアの心まで溶かしていく。

4時間を共に過ごした後に、ドレアはサイモンに一緒に連れて行ってと懇願するが、サイモンは「一度だけで充分だ」との言葉を残して立ち去る。

ボスには街の売春婦のように扱われ、かつてないほどの渇望を感じたサイモンに捨てられたドレアは強い怒りを感じ、自分を窮地に陥れたボスに復讐すると共に新しい人生を掴むために、ボスの隠し資産210万ドルを奪って逃走するが、ボスの依頼を受けたサイモンが彼女の追跡をはじめる。


美貌を磨き男を騙して生きてきた薄幸の美女と、人とは異なる価値観を持った暗殺者のロマンスですが、前半と後半で少々印象が変わる小説です。

何ものにも心を動かされない非情な男だったはずの暗殺者サイモンが、いつしかドレアに強く惹かれていき、ドレアもある出来事から人生を大きく変えていきます。

一種のピカレスク・ロマンなのかとも思いましたが、どうもそんな物語でもなく、間違った人生を選んでしまった人間の再生の物語になっています。

生まれ変わったドレアの生き方が鮮やかですね。

けっこうサスペンスに富んでいる場面もあるけど、基本は前向きなロマンス小説でしたし、風変わりではあるけど面白い作品でした。


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