北村薫「中野のお父さん」☆☆
大手出版社の文宝出版に勤務する体育会系文芸編集者の田川美希と、定年間際の高校国語教師の父親が、美希の周辺で起る日常の謎を解くという、「円紫さんと私」シリーズのような雰囲気の身近なミステリィ、全8編の短編集です。
文学新人賞の最終選考に残った候補者に電話を懸けたところ、「応募してませんよ、わたしは」との意外な一言が帰ってくるという「夢の風車」。
故人となった大物作家の元にあった女性作家からの愛の告白?の手紙の謎を巡る「幻の追伸」。
小説やエッセーだけでなく写生画でも人気を集めていた故人作家の未発表の画集をめぐる話「鏡の世界」。
其角の俳句から、読み方をどこで切るのが正しいのかを考察した「闇の吉原」。
ハーフマラソンに参加した編集長と美希をめぐる話「冬の走者」。
古書と誤植とサイン本について語る「謎の献本」。
昔郵便配達をしていた老人が語る殺人事件から全集の定期購読について語った「茶の痕跡」。
宝くじおばさんの災難と女子バスケチームの双子を絡ませた「数の魔術」。
どれも少し気になる世間話くらいの話で、そこに出て来る謎を解くのはお父さんで、娘は謎を実家の父親に持ち込むだけですが、お父さんは百科事典並の知識量と柔軟な発想で、娘の話を聞いただけであっさりと問題を解決しちゃいます。
管理人と同年輩のお父さん恐るべし・・・。多少の衒学趣味が気になることはなるけど、楽しく読める平穏なミステリィでした。