北村薫「夜の蝉」☆☆☆

夜の蝉

「空飛ぶ馬」に続く連作ミステリィ「円紫師匠と私」シリーズの第2作品集で、「朧夜の底」「六月の花嫁」「夜の蝉」の3つの作品を収録しています。

連作短編集の形をとってはいるものの、3つの短編からひとつの作品を構成しているようです。

「空飛ぶ馬」では登場しない主人公の姉が、脇役ながらもこの作品の主題に相応しく重要な役で登場します。

謎解きという点では然程の興味をそそられる訳ではありませんが、女子大生の私の感性と落語家の円紫師匠の人柄、そして彼らを取り巻く人々の生き方・感じ方がとても興味深く、著者の博学なところも嫌味がなく、サラサラと読めてしまう好作品だと思います。

この作品のメインテーマは姉妹の情愛でしょうか。

美しい姉と何となくその姉に引け目を感じ距離感を感じていた「私」の心の通い合い。それは「私」の成長の証でもあります。

確かに「空飛ぶ馬」の頃よりも「私」は成長している。その若い女性が伸びやかに成長する姿を、身近な謎解きを絡めて書き上げて気品を感じます。

特に「夜の蝉」は幼い頃の記憶の切なさを描いて胸を打ちます。

一応は身近な事件のミステリィなのですが、謎解きなどにとらわれない深い味わいのある作品です。


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