北村薫「ひとがた流し」☆☆☆
TVキャスターをしている40代の独身女性石川千波。高校時代の英語の授業中に、姓の石川を黒板に殴り書きしたところ、それを見た教師がTOM?と言った事から、親しい仲間内ではトムさんと呼ばれるようになった。(このエピソードがなかなか秀悦ですね)
千波の高校からの親友の水沢牧子と日高美々は、それぞれバツイチ女性。
作家の牧子、元編集者で今は写真家と再婚した美々、そして千波の3人は、高校卒業後それぞれの道を歩みながらも、お互いに認め合い、事あるごとに助けあって生きてきた。
そうした日々の中、千波に人生の転機が訪れる。
自分がジャーナリストとして望んでいたニュース番組のメインキャスターに抜擢され、更には年下の恋人との出会いが生まれる。
これから新しい挑戦と心を寄せるパートナーとの日々が始まろうとするその矢先、千波に異変が起きていた。
北村薫作品らしい毅然とした姿勢で生きている3人の女性の描き方が素晴らしいですね。
3人とも生き方に筋が通っていて、自然体でいながら振る舞いが凛としている。
そんな女性たちと、その周りの人達の日常の佇まいが淡々と描かれています。
作品の中盤までは、そうした彼女たちの生き方や美々夫婦とその娘の事件が描かれて、それが微笑ましかったりするヒューマン・ドラマですけど、物語の後半になると大きな変化が起きて胸を打ちます。
あまり大仰でない分、読後感が実にしみじみとして良い作品でした。