白石一郎「十時半睡事件帖」シリーズ ☆☆☆

「十時半睡事件帖」シリーズ

一度は家督を息子に譲り隠居したはずが、酸いも甘いも噛み分けた人柄を評価され、総目付という要職に付くことを命じられた福岡藩の老武士・十時半睡(とときはんすい)を主人公にして、江戸時代のサラリーマンである武士の生活を時にはユーモラスに、時には厳しく見つめて描いた連作時代小説の傑作です。

お家騒動みたいな血なまぐさい事件は基本的に描かれていません。

太平の世が長く続き、本来は戦闘集団であるはずの武士も世襲のサラリーマンと化した時代が舞台です。

なかなかユニークな武士が登場してきますが、これが実は江戸時代を借りながら現代社会を風刺したような作品が多くて、読んでいてほのぼのしたり、笑えたり、考えさせられたりします。

城下町で一人の武士が走り出したことからジョギング(こういう表現ではないけど)がブームになったり、江戸時代の援助交際(これも違う表現だけど)が描かれたり、妻の側から申し入れがあった熟年離婚が描かれたりして、そういう様々な出来事に対する十時半睡の処置が大人の対応で、実に良い味わいがあります。

「庖丁ざむらい」「観音妖女」「刀」「犬を飼う武士」「出世長屋」「おんな舟」「東海道をゆく」と7作発表されていますが、時代小説のテイストでありながら現代を感じるという独特の雰囲気が味わえる時代小説は貴重だと思います。

あまり殺伐としていない時代小説を読みたい方には特にお勧めですね。

      

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