司馬遼太郎「坂の上の雲」☆☆☆

坂の上の雲

明治維新を経て近代国家となった日本が、存亡の危機に立ち向かった日露戦争。

新国家の樹立と近代化で高揚する明治という時代を舞台に、日本軍人として日露戦争で活躍した秋山好古・真之の兄弟、新しい文学を志した正岡子規などの物語から、日本を見つめ直した歴史時代小説の最高傑作です。


まず書き出しからして素晴らしい。

四国の伊予松山。維新で時流に乗り損ねた松山藩の、更に貧乏武家の家に生まれた若者・秋山好古が、貧乏から抜け出すために、無料の学校である師範学校に入ろうと決心する場面から物語が始まります。

「・・ぞな」という「坊ちゃん」でお馴染みの松山弁からして、非常にのどかな印象ですが、そののどかな国の貧乏武士の少年が、無料という事だけに惹かれて学校に入り、軍人になり、国家の礎を築くという、まさしく黎明期だけにあるような底抜けの明るさやスピード感みたいな事をまず感じます。

東郷平八郎や児玉源太郎の様な軍人だけでなく、伊藤博文や山県有朋、西郷従道などの政治家達も、ごく一般の庶民たちも、それこそ国家存亡の危機を何としてでも乗り越えようと一丸となって総力を尽くした日露戦争。

そこに至るまでの道のりやら、日本としての政略・軍略などが細かく描かれていて、当時の指導者たちが如何に冷静に考え抜いて行動したのか、その行動力と胆力には敬意を抱かずにはいられません。

今の日本があるのも、まさしくこういう人々が居たからこそと強く思うし、当時の屈指の強国であったロシアと戦い、それに何とか負けずに済んだのは、やはり当時の指導者たちの戦略が如何に優れていたかという事です。

日本海海戦の描写やロシアとの激戦の様子などを読むと、そういう日本という国家や使命感を持った人たちに対して誇りを感じます。

しかし仕方がなかったとはいえ、当時から戦果をごまかして公表するという姿勢が日本軍の体質でもあったし、これが後々の大戦での悲惨な状況に繋がって行くわけで、歴史の流れと言うのは本当に不思議なものです。

国家存亡のかかった防衛戦争で、しかも敵が世界の憎まれ者で敵役だったロシア。その強大なロシアに対して、極東のちっちゃな日本と言う国が無謀にも挑戦している、そんなイメージで世界の同情を集めて、何とか国を滅ぼさずに済んだ程度だったのに、思いあがってしまうとは・・・。

そういった事を考えさせてくれる、まさしく国民文学といっても過言でない日本人なら一度は読んでおくべき歴史小説の傑作中の傑作の作品です。

 

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