沼田まほかる「ユリゴコロ」☆☆☆

ユリゴコロ

ドッグランの付いた喫茶店を経営する亮介は、結婚を誓った女性が失踪したことを契機にして立て続けに不運に見舞われてしまう。

父が癌に侵され余命幾ばくもないことが分かり、その直後に母が突然の交通事故で死んだ。

日に日に弱っていく父の見舞いで実家に行った亮介は、父親の書斎の押入れに隠されたようにしまわれていた4冊の古いノートを見つけ、何気なく①と番号の付いたノートをめくる。

「ユリゴコロ」と記されたノートに拙い文字で書かれていたのは、人を殺すことにより自分の生を実感するような人物の生い立ちと殺人についての告白だった。

現実離れしたその手記に惹きつけられる亮介。これを書いたのは父なのか母なのか・・・。

そもそもここに書かれていることは真実なのか。


誰かが書いた「ユリゴコロ」というノートと、失意の中にいる主人公亮介の日々を交互に描きながら物語は進みます。

サイコ・ホラーっぽい展開で始まる物語ですが、どこか耽美的な部分と現実的な部分があって、怖い物語という印象は受けません。

怖い話と言うより、ノートを書いているどこかが壊れた人物が「アナタ」と出会って変化していく辺りに救いを感じる物語だと思います。

殺人が描かれているのに、どこか夢の中の出来事のように思えるのは、「ユリゴコロ」に囚われた人物から見た視点で描かれているからなのでしょう。

ホラーやファンタジィではないけど、現実離れした物語に引き込まれてしまい、ラストシーンを迎える前に多分こういうことかなと思った通りになりますが、読み終えた後に余韻が残りました。


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