ルイス・シャイナー「グリンプス」☆☆

グリンプス

何かと確執があった父親の死後、修理屋のレイ・シャックルフォードは過去の幻のアルバムを現代に蘇らせる能力に目覚めた。

ドアーズ、ビーチボーイズ、ジミ・ヘンドリックスの、それぞれ完成することがなかったアルバムを作るために、レイは過去に旅をする。


1994年の世界幻想文学大賞受賞作です。

物語のストーリーは案外とシンプルです。

でも60年代のアメリカのロックに多少なりとも興味を持っている人が読むと共感できる部分が多そうな気がします。

この作品を最初に管理人が読んだ時は、管理人の年齢は主人公のレイとほぼ同年輩でした。

別に洋楽に対して特に思い入れのない管理人には、ロック自体への共感もないし思い入れもありませんけど、主人公の感じている焦燥感というか漠然とした不安というか、そういう所には何となく共感できたような気がします。

ただし、この作品のひとつのテーマ、音楽で全てが変えられる、という幻想には不自然さを感じます。

残念ながら管理人は、音楽は所詮音楽でしかないと思う。

また管理人のように英語を解せず文化も違う人には、例えばビーチボーイズの未公開の素晴らしいアルバムが発見されても、それ程衝撃を受けないと思います。

ただこの小説の本当の狙いは、そういう過去を懐かしむような話よりも、ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルスンやらジミ・ヘンドリックスの生き方を通して、レイの悩みや葛藤、漠然としているけど自分が抱いている恐れに打ち勝とうとする姿を描いたものだと思います。

人と人との繋がりが今よりもっと密接だったアメリカで、価値観の大きな変化が起こり始めたのが1960年代後半からで、その時代と向き合うことでこれからの時代がどうあるべきか、家族や人間関係をどうしていくべきかを暗示するような作品だと思います。

少々地味な作品ですが、印象深い作品でもあります。


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