コリイ・ドクトロウ「リトル・ブラザー」☆☆
2009年のジョン・W.キャンベル記念賞受賞作です。
コンピューターやゲームに詳しくて、プライバシーを守ろうとしない学校や社会制度に反感を持ち、時折いたずら半分のハッキングはするものの、それ以外はごく普通の高校生のマーカス・ヤロウ。
しかしサンフランシスコ湾で起こったテロ事件に巻き込まれ、犯人一味ではないかとの疑いをかけられて、国家権力に拘束されて厳しい取り調べを受けたことから、マーカスの生活は様変わりしていく。
テロのような自分たちが攻撃されることに対して、異常とも言える反応を示すアメリカ人の描写が如何にも有りそうで怖い感じがします。
テロリストを撲滅するためなら何でも許されるという空気の中で、どう考えてもテロ行為とは関係なさそうな高校生たちを秘密裏に長期間拘留し、違法な取り調べを続けた国家安全保障省の役人。
一度は彼らの脅しに屈したマーカスでしたが、捕まったまま釈放されない親友を救うため、そして自由こそがアメリカの力であり自分たちの権利だという信念のもとに、同じような考え方を持つ同年代の仲間やお祭り騒ぎに参加したい学生を独自のネットワークで結んで、役人たちへの抵抗運動を密かに開始します。
コンピューターに詳しいとは言っても普通の高校生が、本腰を入れた国家権力にどこまで立ち向かえるかは正直疑問で、そういう点ではあまりリアリティは感じませんでしたが、巨大な施設に入り込んだり、パスワードを盗み取ったりするようなやり方ではない、大人が考えつかないような手作りのネットワークで仲間を組織していくやり方が興味深い作品でした。
なんだか無謀に行動に移すところが、青春だなぁと思いました。
瞬間的に頭に血が上って権力の暴走を見過ごすけれども、しかし最終的には自由を守ろうと立ち上がる普通のアメリカ人たちの姿は、普遍的な何かを信じているから出来ることではないかという気がします。
テロを防ぐためとは言え、民主国家がテロリストと同じような立ち位置で人権をないがしろにすることは許さないという主張は大事なことだと思います。
しかし反面、現実にテロが続いたときに、どこまで自由が担保されるのかは難しい問題で、考えさせられます。