ジュリア・クイン「ミランダの秘密の日記」☆☆
イングランド湖水地方に住む准男爵の娘で10歳になる少女ミランダは、親友の伯爵令嬢オリヴィアの11歳の誕生パーティで、けっして美しいとは言えない自分の容姿をパーティに招かれていた友人にからかわれて落ち込む。
そんなミランダを自宅まで送ってくれたオリヴィアの兄ターナーは、ミランダを慰めながら彼女に日記をつける事を勧めた。
何故日記をつけるのかと尋ねたミランダに、ターナーが告げた言葉は「いつの日か君が本当の自分に成長して美しい女性になった時に、日記をみれば昔の事を思い出してきっと笑える。その時には僕にもその微笑みを分けておくれ」だった。
家に帰ったミランダは、早速学者肌の父親のところに行って一冊のノートをもらい、日記をつけ始める。
最初の日に書いた日記はただ一行「今日、あたしは恋に落ちた」だった。
それから9年の月日が経ち、ミランダは聡明で心優しく、そしてターナーを一途に想い続ける女性に成長した。
ヒストリカル・ロマンスというと、活劇や復讐譚やミステリィか、ホラー風味がある作品が多いと思いますけど、この作品は純粋な恋愛小説という感じの作品です。
こういう系統のロマンス小説の多くがジェイン・オースティンの影響を受けているように、この作品にもそういったものが感じられます。
多分意図的なんでしょうけど、作中でミランダが読んでいる本のタイトルが「分別と多感」や「高慢(自負)と偏見」だったりします。
そしてオースティン作品と同じように、この作品でも事件らしい事件は起こらないけど、作品のメイン・テーマのミランダの一途な気持ちが描かれていて、なかなか読み応えがある作品だと思います。
ミランダの愛情を受けているターナーは、美しいけれども性悪な女性との結婚に失敗したことからミランダの気持ちが素直に受け取れない。
それでも紆余曲折の末にミランダと結婚しますが、ミランダを愛していながらも彼女に愛を告げられない不可思議なトラウマにとらわれてしまいます。
そしてそもそも自分に自信を持てないミランダは、そうしたターナーの態度に傷ついています。
ミランダが恋した完璧な男性、でも彼自身が持つ気持ちの弱さみたいなものが自然に書かれているところが値打ちですね。
初恋を貫いた女性を描いた少し淡々とした印象の作品ですが、終わりの方はなかなか良かったと思います。