池井戸潤「下町ロケット」☆☆☆
「果つる底なき」で第44回(平成10年度)の江戸川乱歩賞を受賞した池井戸潤の企業小説の傑作です。
「空飛ぶタイヤ」などで何度か直木賞候補になった池井戸潤ですが、この作品で第145回の直木賞を受賞しました。
かつて宇宙科学開発機構でロケットエンジンの開発研究者だった佃航平は、新型エンジンを搭載したロケットの打ち上げ失敗の責任を取る形で開発機構を辞め、亡くなった父の跡を継いで東京・大田区の中小企業佃製作所の社長に転身し技術開発に力を注いで着実に実績を伸ばしていた。
しかし長引く不況の中で、大口顧客から部品の内製化を理由に取引停止を言い渡され、銀行からの新規融資も難色を示された処に何と特許侵害の訴訟を起こされる。
訴訟を起こしたのは、世間からはマネシマと揶揄されながらも他社類似製品を販売することに長けている大手企業のナカジマ工業。
ナカジマ工業は佃製作所の特許申請の不備を突いて後追いの自社製品の特許を取得し、佃製作所から巨額の賠償金を得ようと画策していた。
また時期を同じくして、日本を代表する超巨大メーカーの帝国重工は、社命をかけて開発中の新型ロケット搭載エンジンのキーデバイスとなる新型バルブに関して、佃製作所が先に特許を取得している事を知る。
横暴な大手企業からの申し立てに、今にも飛ばされそうな佃製作所は自社技術の優位性を信じて立ち向かう。
訴訟時に頼りにならない顧問弁護士、大手企業からの訴訟に怯むメインバンク、ライバル企業の誹謗中傷で取引を停止する顧客、まさに四面楚歌のような状況の中で、技術では負けないと中小企業の誇りをかけて真正面から立ち向かう佃航平と、彼をサポートする人たちが格好良いですね。
そんな危機的状況の中でも、見ている人は見ています。
別れた妻からの紹介で技術に詳しい弁護士と知り合い、中小企業の技術を食いものにするナカジマ工業に対するネガティブな新聞記事や佃製作所に出資するというベンチャーキャピタルの登場などで、佃製作所は一旦は窮地を救われます。
ただ今度は社内での軋轢が生じたりして、現実と同様に一筋縄では行かない展開が広がっていきます。
そんな厳しい状況が続く中でも、理想や夢を持たない仕事はしたくないと自分の夢を追いかける航平の姿が周りの人達を熱くさせていく。そんな展開が面白いですね。
夢中になって読んでしまいました。
日本の中小企業には頑張って欲しい。そんな気持ちにさせてくれる応援歌のような傑作ビジネス小説です。