池井戸潤「空飛ぶタイヤ」☆☆☆
管理人としては「下町ロケット」で直木賞を受賞した池井戸潤の最高傑作ではないかと思っています。
何故この作品で直木賞が取れなかったんだろうと思うとともに、こういう作品では受賞が難しいのが文学賞なんだろうなぁという感を強くします。
中小運送業の赤松運送が所有するトレーラーのタイヤが走行中に外れ、歩道にいた母子を直撃するという痛ましい事故が発生する。
財閥系メーカーのホープ自動車は事故原因を整備不良と断定し、赤松運送は世間の非難を浴びて存続の危機に陥る。
クルマの整備には日頃から注意を促してきた赤松運送社長の赤松徳郎だったが、若手社員の整備が行き届かなかったかと初めは落ち込むが、一見いい加減に見える従業員の日頃の整備にかける思いを知ると、果たして本当に整備不良が事故の原因だったのか一人調査を開始する。
一方でホープ自動車の内部では、部品の不具合が事故の原因ではないかとする調査結果が上がったが、業績の悪化を恐れる会社上層部はそれを隠蔽するよう指示する。
三菱自動車のリコール隠しを題材にした骨太の企業小説で、尚且つ人情味に厚い中小企業の社長が大企業の横暴に立ち上がり、彼に手を差し伸べてくれる人たちの手を借りながら真相を究明するという、何か心に強く訴えかけるものがある傑作です。
大企業の人命を軽視し自己の責任を逃れるとんでもない体質と論理、大企業だからおそらく間違っていないと思い込む人々、これはおかしいと感じて調べる人たち、そして内部告発で明らかになる事実。
現実でもこの小説のようになるのなら、日本はまだ救いが有るのかもしれない、そんな風に思いました。
色々と考えさせられる作品ですが、何よりもとても面白い小説です。未読でしたら是非一度読まれることをお勧めします。