池井戸潤「果つる底なき」☆☆☆

果つる底なき

二都銀行融資課に勤務する伊木と同期入行の、債権回収を担当する銀行員・坂本が、アシナガバチに刺されたアレルギー性ショックで死んだ。

死ぬ直前に伊木とすれ違った坂本は、「なあ、伊木、これは貸しだからな」と伊木に謎の言葉を残していた。

坂本の死後、彼が顧客の口座から自分の口座に不正に送金していた事が発覚するが、坂本を知る伊木には納得が出来ない。

坂本の死を他殺ではないかと不審に思い、彼の生前の行動を調べ始めた伊木は、坂本が残した書類の中から不正融資に関する資料を見つける。

そこには、かつて自分が融資担当だった頃に起きた東京シリコンの倒産の原因にも言及があり、更に深い闇を暗示させるものがあったが、そうした伊木の行動に気づいた殺人犯は、伊木にも魔の手を伸ばしてくる。


かつて不祥事を起こして左遷された銀行員伊木が、倒産した東京シリコンの社長の娘で、一時はお互いに惹かれあった柳葉奈緒と再会し、亡くなった坂本や尊敬する経営者だった東京シリコン社長の柳葉朔太郎の無念を晴らすべく、伊木への様々な圧力を跳ね返して事件の真相に迫る姿を描いた、第44回江戸川乱歩賞受賞の企業ミステリィです。

銀行という組織で生きるために非情に徹した自分との決別と、毅然とした生き方が、何やら心に迫るミステリィです。

犯人も最後の事件解決も管理人にはスッキリとした形に思えて、流石に江戸川乱歩賞受賞作といった感じを受けました。

池井戸潤は「下町ロケット」が直木賞を受賞し、TVドラマ化された「半沢直樹(原作はオレたちバブル入行組他)」で大人気作家になり、今や企業ミステリィの第一人者のような存在ですが、この「果つる底なき」はその原点のような作品です。

この頃から勧善懲悪の企業小説を書いていて、ハズレの少ないエンターティメントを書く作家ですね。


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