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垣根涼介「勝ち逃げの女王」の感想です。

垣根涼介「勝ち逃げの女王(永遠のディーバ)」☆☆☆

勝ち逃げの女王

リストラ請負会社の日本ヒューマンリアクトに勤務する村上真介を主人公にした、元気をなくしている日本人への応援歌とも思えるようなユーモラスな人気ヒューマンコメディ・シリーズの4作目です。

「File 1. 勝ち逃げの女王」「File 2. ノー・エクスキューズ」「File 3. 永遠のディーバ」「File 4. リヴ・フォー・トゥデイ」の4編の短編を収録しています。尚、単行本から文庫化するにあたって「永遠のディーバ」と改題されています。

「File 1. 勝ち逃げの女王」は国策航空会社のリストラ対象となったCAにまつわる物語で、当然モデルとなった企業はJALでしょう。

通常は人を退職に誘導するのが真介の仕事ですけど、多すぎる退職希望者を絞り込んで何割かの社員に会社に残ってもらうようにするのが今回のミッション。

その中でIT企業の役員と結婚したいわゆる勝ち組の既婚CAの退職を巡る話ですが、CA本人が語る場面が少ないような気がしました。

「File 2. ノー・エクスキューズ」は、主人公の真介が勤務先の日本ヒューマンリアクトの課長に昇進したことで、少しぼんやりする事が増えたため、社長が昔の知り合いたちとの飲み会に真介を連れて行く。

その知り合いとは、社長が若かりし頃にリストラした元証券会社の社員だった。

この作品のモデルは山一證券ですね。

真介と彼らとの会話で、団塊の世代の社会観・人生観のようなものが語られている点が興味深い。「人間、もう必要とされなくなった場所に居てはいけないんだよ。」という言葉が深いですね。

読んでいて、思わず管理人も頷いてしまいました。

「File 3. 永遠のディーバ」は老舗楽器メーカーに勤める赤字部門の課長の話で、このリストラ企業のモデルはヤマハでしょうか。

ポプコン準優勝の経歴を持つ、人が良くて部下に慕われている課長だけど、頑張っても業績は上がらない。

若い頃はプロのミュージシャンになるつもりだった彼が、何故プロにならなかったのかという話を踏まえながら、なかなか奥の深い話が展開されます。

ちょっと感動的な話で、このシリーズ全体の中でも管理人はこの作品好きです。

「File 4. リヴ・フォー・トゥデイ」は第1話と同様に、リストラはするけど会社としては辞めて欲しくない外食産業のスーパー店長を引き止める話。

16歳の頃に牛丼屋でバイトを始めて、能力を認められてバイト身分で店長になる。牛丼屋とファミレスを掛け持ちでバイトして、都内の難関私立中高から早稲田の政経を出て、バイト先だった今のファミレスに入社。

直ぐに幹部として本社の管理部門の長になるが、会社の業績が下がってきた時に現場に出たいと言って旗艦店の店長になるというすごい経歴と実力の持ち主だけに、会社は辞めて欲しくないけど、本人の気持ちは固まっている。

この店長の生き方がすごく格好良いです。

働くことの意味、生きることの意味を見つめ直すような作品が多くて、色々と考えさせられました。

シリーズ4作目で、もっとダレるかと思ったら中々良い作品が揃っていましたね。

「君たちに明日はない」シリーズ。

  1. 君たちに明日はない
  2. 借金取りの王子
  3. 張り込み姫
  4. 「勝ち逃げの女王」(本書)
  5. 迷子の王様