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ローラ・リー・ガーク「愛の眠りは琥珀色」の感想です。

ローラ・リー・ガーク「愛の眠りは琥珀色」☆☆☆

愛の眠りは琥珀色

ハモンド子爵夫人ヴァイオラは、まだ17歳の小娘だった9年前に、優しくハンサムな若い子爵ジョンに恋した。兄のトレモア公爵アントニーはジョンの事を持参金が目当ての貧乏貴族のロクデナシだと告げたが、ヴァイオラには兄の忠告など耳に入らず、少なからない持参金を持ってジョンと結婚した。

しかし幸せな結婚生活は僅かな間だけだった。

夫には愛人がいた。その事を責めると夫は謝罪よりも言い訳ばかりだった。

夫のことが許せず、いつしか夫婦仲は冷えきり、二人は別々に暮らすようになり、社交場で極力顔を合わせないようにする日々が続き、社交界でも二人は名前だけの仮面夫婦だと思われるようになってしまった。

ところが子爵家の爵位継承者である夫の従兄弟とその息子が猩紅熱で相次ぎ亡くなってしまった。ヴァイオラとジョンには子どもがいない。信頼できる跡継ぎをなくしたジョンは、ヴァイオラとの関係を修復して跡継ぎ息子を作ると宣言する。

夫を軽蔑し忌み嫌うヴァイオラだったが、ジョンは正妻であるヴァイオラに、夫婦の義務に従い同居するように申し出る。


ローラ・リー・ガークの「ギルティ・シリーズ」4部作の第3作目の作品です。夫婦とは名ばかりの二人が、お互いの信頼を取り戻して新しい人生を築いていく姿を描いたヒストリカル・ロマンスで、管理人はこういう作品が大好きです。

妻ヴァイオラはこう考えています。

君を愛しているとの言葉を信じて全てを捧げて結婚したのに、夫は兄の言った通り持参金だけが目当ての放蕩者だった。結婚する前から愛人を囲い、言い訳はしても謝罪はせず、私を捨てて愛人と暮らす卑劣漢。社交界に行く度に夫と新しい愛人の話を聞かされ居たたまれない気持ちになる。離婚できるものなら離婚したいが、せめて夫とは距離をとって何の関係も持ちたくない。

夫ジョンの言い分はこうです。

自堕落な両親から破産状態の子爵家を相続した自分が、荒廃した領地と領民を救うためには、どうしても裕福な家の娘と結婚する必要があった。別に騙すつもりなどなく、ヴァイオラの事は好きだったし、一緒に寛げる家庭を作る積もりでいた。

確かに独身貴族の常として愛人はいたが、愛人とは結婚前にキレイに別れたはずだった。ところが強欲な愛人が手切れ金に不満を言いだして、妻に愛人の存在を知られてしまった。しかし結婚してからは不貞など働いていない。それを何度も説明したのに妻は聞き入れようともせずに彼を部屋から閉めだした。

妻は会う度に軽蔑した表情を見せて妻としての勤めを果たそうとしない。何を言っても何をしてもムダだ。こんな状態ではどんな夫だって自分と同じように愛人を作るはずだ。

そんな状況が9年間も続いていましたが、ジョンが何としてもヴァイオラと夫婦として暮らし跡継ぎを作ると決めて、ヴァイオラに真剣に言い寄り始めてから二人の気持ちに変化が現れます。

ヴァイオラは自分では認めたくないものの、今でも心の奥でジョンを愛し続けていた事を知ります。ジョンが囁く甘い言葉を、理性では信じてはいけないと思いますが、心がそれを欲していることに気がついてしまいます。

一方でジョンは、ヴァイオラに信頼してもらえない心の弱い自分、人に愛情を感じることが出来なかった自分と向き合わざるをえなくなり、実はヴァイオラを愛していたことに気がつきます。

ロマンス小説は、色々な点で違いがある男女が出会い、時には反発しながらもいつしか惹かれあい、さまざまな障害を乗り越えて結婚するまでを描く話が多いのですけど、この作品は9年間も仮面夫婦を演じてきた二人がお互いの真実の姿に気がつき再生していく物語で、そこがなかなか興味深い作品です。


ギルティ・シリーズ。
愛のかけらは菫色
愛の調べは翡翠色
「愛の眠りは琥珀色」(本書)
愛の誘惑は太陽の色