池井戸潤「架空通貨」☆☆
池井戸潤が「果つる底なき」で江戸川乱歩賞を受賞した後の第1作目の作品で、当初は「M1(エムワン)」というタイトルで出版されていましたが、「架空通貨」に改題されています。
一流商社で企業調査を担当していた辛島武史は、リストラとそれに続く離婚を転機に高校の社会科教師となった。
そんな中、教え子の女子生徒・黒沢麻紀の父親が経営する会社が、取引先・田神亜鉛の不渡りにより経営危機に陥る。
父の会社の倒産を阻止するために、麻紀は田神亜鉛がある田神市に出向くと言い出した。
田神市は田神亜鉛が君臨する企業城下町。麻紀に付き添って田神亜鉛に出向いた辛島は、前職の知識とコネを利用して田神亜鉛の調査を始めるのだが・・・。
前職で挫折した時には人生に正面から向き直れなかった高校教師が、教え子の危機に接して行動をともにし、大きな陰謀に立ち向かうといった感じのサスペンス小説です。
話としては面白かったし、物語が進展するうちにパニック小説のようになっていく不気味さもありましたが、ここまで地元に対する支配力がある企業が、この程度(内容的にも歴史的にも)の規模だとどうなんだろうと素朴に感じました。
例えば日立製作所(日立市)やトヨタ自動車(豊田市)のような規模の大企業が、非上場で閉鎖的で創業者一族が全てを握っているのならまだ納得出来ますけどね。
でも案外と日本の地方都市には、こういう企業城下町も多いのかしら。
父親の会社を何とか救いたいとする女子高生の姿勢が非常に前向きで、そこが全体的に明るい感じになっていて良かったですが、残念ながら面白いけどリアリティに欠けるビジネス・サスペンスでした。