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ニール・ゲイマン「墓場の少年 ノーボディ・オーエンズの奇妙な生活」の感想です。

ニール・ゲイマン「墓場の少年 ノーボディ・オーエンズの奇妙な生活」☆☆☆

墓場の少年 ノーボディ・オーエンズの奇妙な生活

2009年のヒューゴー賞受賞作で、カーネギー賞ニューベリー賞というイギリス・アメリカの権威ある児童文学賞をダブル受賞した作品です。

しかし児童文学と言っても、邦訳されたこの小説は児童文学らしくない感じで、内容も家族を何者かに殺害された赤ん坊が、迷い込んだ墓地に住む幽霊や人間ではない存在によって育てられていくという、ある意味不気味な設定の作品です。


ジャックと言う名の非情な殺し屋が、深夜とある家に忍び込み、父親・母親と7歳の娘を殺害する。

さらに1歳になったばかりの赤ん坊を殺そうと赤ん坊の部屋に入るが、赤ん坊の姿が見当たらない。

なんと、この行動的な赤ん坊は、両親に見つからないようにそっと自分の部屋を抜けだして、家の近くにある墓地に入り込んでいた。

赤ん坊を追って殺し屋は墓地に向かった。

しかし赤ん坊は人の良い幽霊のオーエンズ夫妻に保護されていた。

殺されたばかりの赤ん坊の両親の霊がオーエンズ夫妻の元を訪れて、息子のことを二人に託していく。

緊急に開かれた墓地の住人たちの合議により、赤ん坊には墓場への特別居住許可が与えられ、彼はノーボディ(Nobody=誰でもない)・オーエンズと名付けられて、オーエンズ夫妻の子供として、死者でもなく生者でもない謎の人物サイラスを後見人として育てられる事が決まった。

かくして幽霊たちの力で殺し屋ジャックの目をくらました赤ん坊のボッドは、由緒正しい墓地に眠る人々からの教育や薫陶を受けながらすくすくと育っていく。


この小説はすごかったですね。

墓場で暮らす少年の成長と冒険の物語。

幽霊たちから姿を消す方法や他人に恐怖感を与える方法などを習い、この世とは違う別の世界を知り、今でもボッドを探しているジャックの目を逃れて、ボッドは赤ん坊から利発で思いやりのある少年に育って行きます。

クライマックスでの両親を殺害した人たちとの戦いを乗り越えて、少年から青年となったボッドが、我が家である墓場から人間の世界に向けて巣立って行く時、何やら墓場の住人たちと同様に管理人も別れがつらくて寂しい気持ちになってしまいました。

一種独特の雰囲気があるニール・ゲイマンの作品は、欧米での高評価の割には、日本では一般受けしづらい作品が多いようですが、この作品は不気味な世界観の中に大らかさと思いやりが溢れていて、ニール・ゲイマンらしいユーモア・センスも分かりやすくて、実に良いですねぇ。

確かにゲイマンの最高傑作かもしれません。

少なくとも管理人はゲイマン作品の中ではこの小説が一番好きです。