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オースン・スコット・カード 「死者の代弁者」の感想です。

オースン・スコット・カード「死者の代弁者」☆☆☆

死者の代弁者

エンダーのゲーム」の続編になります。「エンダーのゲーム」を読まなくても充分に楽しめるけど、エンダーのゲームを読んでからの方が感動も深いと思います。


昆虫型異里人バガーとの人類存亡をかけた戦いで、少年ながら艦隊司令官として勝利しバガーを絶滅させたアンドリュー(エンダー)・ウィッギン。

しかし彼はバガーの女王とのテレパシー交換により、バガーとの交戦は避けられたのではないかとの思いを深くする。

救世の英雄としての地位を捨て、姉バレンタインとともに宇宙の放浪を続けるうちに三千年の月日が経ったが、人生の多くの時間を宇宙船で過ごしてきたエンダーはまだ壮年だった。

死者の気持ちを代弁する死者の代弁者となり、バガーを絶滅させたことから自らを告発する著作を発表して、エンダー・ウィッギンを虐殺者として人々の記憶に残すようにしたエンダーは、ある日惑星ルジタニアから救いを求める少女の叫びを聞く。


基本的には異文化との接触と夫婦・家族愛をテーマとした作品です。

ただルジタニアの原住民ビギーとの接触は、全く価値感が異なるが対等な二つの文化の接触というより、何やら未開地の野蛮人との出会いを微妙に上からの目線で描いているようで少々気になります。

対バガー戦争の総括も、結局のところバガーを絶滅させ脅威がなくなった後でジェノサイドを反省しているような、いかにもアメリカ的というか偽善的なものを感じてしまうし、救国の英雄をその時代を生きていなかった人々が批判するという設定にもあまり共感はできない。

しかしそれでもエンダーの生き方というのは、その最大の理解者である姉バレンタインと共に感動的です。

自らの贖罪の為に「死者の代弁者」を名乗り、思いを残して死んだ人の気持ちを代弁するエンダー。彼が最初に代弁したのは、彼が滅ぼしたバガーであり、それが為に本来は英雄であるはずのエンダーの名声は地に落ちてしまうけれども、エンダーのそうした行動を理解している人はいない。

伝説の英雄となっている遠い過去の人物エンダー・ウィッギンと彼を非難する初代死者の代弁者が同一人物だとは誰も思っていません。

ちなみに「死者の代弁者」というのはある種の宗教の様でも有り、また代弁されることが基本的人権のような一つの権利の様にも描かれています。

そうした中で救いを求めた少女のためにエンダーがルジタニアに着いた時、少女は夫を亡くし子供を持つ巌しい女性に成長していた。

厳しい環境の中で生きている人々の中でエンダーが見つける新しい生き方とルジタニアで起きた殺人事件の謎。

人が人を理解する事すら難しいのに、全く価値観の異なるエイリアンを理解する事など到底不可能な事だろうと想像しますが、それをこの様な形で表現するカードの理想主義というのは、昨今の宗教や民族の違いによる大量殺戮事件が続く中で貴重な物だという気がします。

全体的に落ち着いた雰囲気の中で繰り広げられる物語ですけど、電脳空間内に突然変異的に誕生した知性体ジェインとエンダーとの会話が管理人は好きです。こういう小細工があるのも良いですね。