広瀬正
1924年9月30日生、1972年3月9日没
広瀬正は寡作な作家で、作品数は6作のみ出版されています。
昭和初期の日本をノスタルジックに描いた作品に特徴があり、特に「マイナス・ゼロ」は日本SF界の最高傑作ではないかと管理人は思っています。
第64回の直木賞の選考では、あの司馬遼太郎氏も押していたようです。残念ながら落選となりましたが・・・。
1972年3月9日に心臓発作で47歳という若さで急逝しました。
その葬儀の棺には「タイム・マシン搭乗者」とあったそうですが、彼の作品を読むと納得できる言葉です。
広瀬正 作品リスト
T型フォード殺人事件
- 再読度 ☆☆:読後感 ☆☆
昭和の初めに当時の最先端の自動車「T型フォード」が、関西に住む裕福な医師によって購入された。しかしある日、ドアに鍵の掛かったその「T型フォード」の車内で撲殺死体が発見された。完全なる密室となる車内、事件の謎は解明されず迷宮入りとなった。それから46年の後、この車を買取った富豪宅に7人の人間が集まり密室殺人の真相を明らかにする。ノスタルジックな中編ミステリィ他2編の短編を収録。
- 再読度 ☆☆☆:読後感 ☆☆☆
歌手生活37年記念リサイタルを迎えた東北出身の大歌手・橘百合子は、ふとした会話の中で37年前の昭和8年に18歳で上京して来た頃を思い出した。あの時、田舎から出てきた彼女が行ったひとつの選択、その結果今の大スターの百合子がいるが、もしもあの時にもう一つの選択をしていたらば、どんな人生を送ったことだろう。そして物語は、37年前の選択から現在に至る回想と、もう一つの人生の物語が並行して語られていく。パラレル・ワールドを描いた傑作SF小説。
鏡の国のアリス
- 再読度 ☆☆:読後感 ☆☆
- 第4回(1973年) 星雲賞(日本長編部門) 受賞
銭湯の湯舟に浸かりゆったりとくつろいでいた青年・木崎浩一は、ふと気がつくといつの間にか女湯に入っていた。なんとか銭湯から出た浩一だが、どうも街の様子が今までと違って見える。時計は左回りで目に見える文字は鏡文字。なぜか浩一は左右が入れ替わった世界に入ってしまったらしい。住むところもなくした浩一は、科学評論家の朝比奈六郎の世話になるが・・・。広瀬正らしい細部にこだわった遊び心満載のルイス・キャロル「鏡の国のアリス」へのオマージュとなるSF小説。
タイムマシンの作り方
- 再読度 ☆:読後感 ☆☆
発掘された古代の奇妙な形の出土物の正体について学者たちが議論を重ねるが、結論が出ない。そこでタイムマシンで古代人を連れてきて分かった意外な答えとは・・・。星新一が激賞した「もの」を始めとする、広瀬正のショートショート短編集。時間を旅する小説家・広瀬正らしい作品集。
ツィス
- 再読度 ☆:読後感 ☆☆
ある女性が精神科医に神奈川県の特定の場所に行くと耳鳴りがすると相談した。その女性によれば、その音はツィス音=二点嬰ハ音だと言う。精神科医が調査してみると、確かにかすかな音が聞こえるという人がいた。はじめはかすかな耳鳴りのような音だったが、この不快な音は徐々に強さを増していき、更に音が聞こえる場所も広がっていく。ついには首都圏全体に波及して、住民に避難指示が出るまでの大事件になっていく。第65回(1971年上半期)直木賞の候補作となったパニック小説。
- 再読度 ☆☆☆:読後感 ☆☆☆
空襲警報が鳴り響く昭和20年の東京で、中学生の浜田俊夫は息絶えようとする隣人の「先生」から、18年後の今日この場所に来てほしいという奇妙な頼まれごとをする。その約束を守った俊夫は、指定された日にかつて「先生」と女学生のお嬢さんが二人で暮らしていた場所に建つ家を訪れた。混乱する俊夫を前にして、その家の主人は訳知り顔で「先生」たちが暮らしていた離れに案内してくれた。そこにあったのは不思議な形をした機械だったが、突然その機械が動き出し、中から18年前に行方不明になった隣家の「お嬢さん」が当時のままの姿で現れた。何とその機械はタイムマシンだったのだ。独特の描写が胸を打つタイムトラベルSFの傑作。