トマス・H.クック「夏草の記憶」☆☆☆
アメリカ南部の小さな田舎町で、尊敬される医師として活躍しているベン。この作品は彼の回想シーンをメインとして、30年前にこの町で起きた痛ましい事件をめぐる謎を描いています。
30年前のベンは勉強は出来るがスポーツは苦手で、自尊心が強くて友人が少ない、どこか醒めたところがある高校生だった。
自分が住む町に嫌気が差していて、早く高校を卒業して大学に進み、大きく広がる世界で活躍する夢を抱いている。
そこに北部の都会から一人の少女が転校してくる。
転校生のケリーは正義感のある自己主張の強い美しい少女で、彼女と学校新聞の編集を一緒にするようになったベンは、ケリーに恋してしまう。
ケリーに恋心を告白するほどの勇気は持てないベンと、そんなベンの気持ちに気が付かない無邪気なケリー。この辺りの展開がミステリィというよりは青春小説っぽくて、そんな物語が60年代のアメリカの田舎町を舞台に繰り広げられていき、不思議に懐かしい気分になっていきます。
いわゆる持てない少年ベンの焦燥感には共感出来ます。
うん、君の気持ちは良く分かるぞと思います。
しかし普通の大人が少年の頃の行動を省みる時は、「馬鹿だったなぁあの頃のオレ」と思い、気恥ずかしさを感じながらも、どこか温かい気分もあるのですが、ベンの心の中に有るのは強く残る悔恨の情です。
その理由が徐々に明らかになっていく物語の展開。
事件の真相には驚きませんでしたが、この運命の皮肉には強い哀感を覚えました。
舞台設定が素晴らしい作品で、昔の名作映画を観た時の様な感動を受けます。