トマス・H.クック「心の砕ける音」☆☆
地方検事局に勤めるリアリストの兄と、新聞社を経営するロマンチックな弟が住む小さな町に現れた美しい女性ドーラ・マーチ。
謎めいた雰囲気を漂わせてどこか陰のあるドーラこそが、待ち望んでいた運命の女性だと思い込む弟。
そこから始まる悲劇をクック特有のリズムで描いていく、人の心の闇を見つめた奥行きを感じるミステリィです。
クックの作品はエンターティメントというよりも、普段は表に現れない人間性を、特殊な状況で描いた作品が多いような気がしますが、この作品もクックを代表する「記憶シリーズ」に負けず劣らず余韻の残る作品です。
ミステリィなんだけれども、派手な殺人事件とそれを追いかける探偵などは登場しません。
人間の内面に鋭く迫る小説で、ある意味恋愛小説という感じも受けます。
相も変わらず全体的に暗い感じを受ける小説ですが、記憶シリーズ程の暗さは感じませんでした。
クックの作品は基本的に管理人好みの小説ではないのに、何故か気になってしまいます。不思議ですねぇ。