トマス・H.クック「夜の記憶」☆☆☆

夜の記憶

事故で両親をなくした後、たった一人の肉親となった優しい姉を目の前で流れ者に惨殺された少年ポール・グレーヴズは、長じて「恐怖」を主題にするミステリィを書く人気作家となった。

姉を殺害した犯人を目撃しながらも、その犯人について語ることが出来ず、心に深い傷を負った彼が書き続けるミステリィは、19世紀のニューヨークを舞台にして、社会を蹂躙する悪の帝王ケスラーとその配下のサイクス、それを追いながら肝心なところで取り逃がす刑事スロヴァックの物語。

そんなポールに50年前に起きた少女殺害事件の謎を解く、というよりも起こった事を想像して物語を書いてほしいとの依頼が来る。

依頼主アリソン・ディヴィスの敷地内にあるコテージに泊り、ただ一人で森の中に入り、殺害された少女フェイ・ハリソンの考えていた事、事件の真相や犯人を想像するポール。

しかし少女殺害事件の謎を考えるポールの脳裏には、自身の姉が殺害された時の情景がフラッシュバックされてくる。


二つの未解決の殺人事件の謎と、ポールが書くミステリィが交差して物語は進みます。

劇中の不滅の悪役ケスラーとケスラーに怯えて彼の言いなりとなっている手下サイクス、そしてケスラーをどこまでも追いかける正義の刑事スロヴァックが、ポールが抱えたトラウマを暗示しています。

トマス・クックらしい暗い作風ながら、どこかしらに不思議な情緒が漂う良く出来たミステリィです。

管理人はこの結末には正直驚かされました。

クックはどうしてこんな作品を書けるのか・・・人間の心の闇と救済を描いて妙に後を引く作品です。


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