阿刀田高「夢判断」☆☆

「あの人をころして」「柳の下のジンクス」「銀座の恋の物語」「蜜の匂い」「ベター・ハーフ」「殺意」「海が呼ぶ」「凶事」「自殺クラブ」「紅白梅の女」「演技」「夢判断」「干魚と漏電」「勝ち馬情報」の14篇を収録した奇妙な味のする短編集です。

阿刀田高という作家は、やはり短編向きの作家という気がします。ブラックな味わいが短い作品の中で見事に生かされているように感じます。


「あの人をころして」はこの短編集の中で一番良い出来だったように思います。昔起きた青酸コーラ殺人事件に題を取ったのだと思いますけど、「あの人をころして」という文面と千円札が同封されている手紙が何度も届くという設定が何とも不気味。作品の最後の文章がまた上手です。

「ベター・ハーフ」は少し笑えて、個人的にはチョット痛快な気がしました。結婚するなら絶対に恋愛結婚で、それも自分の自我を完全に認めてくれる男性でなければ真っ平御免だという女性の視点から描かれた物語。時代感覚が少し古いとは思いますけどオチの付け方が見事な感じでした。

表題作の「夢判断」は、赤い色の夢を見るとそれが現実になってしまう青年の物語で、首吊り自殺した人物の描写など生々しくて、さてどんな不気味な事件が起こるものやらとワクワク・ドキドキしながら読みましたが、意外に平和なオチでした。まぁこういう作品も悪くはないですね。

「凶事」は病み上手の死に下手と書かれている通り、そういう運命の女性の話で、世間的にはありそうで、ラストもブラック・ジョークが効いています。

「海が呼ぶ」は、周囲になにもない別荘に一人で来ている男。 鈴の音を聞いて「だれかいるのか!」情けないことに声が震えた。 というこの表現が妙に身に沁みた。何だかよく分かるような気がします、無い勇気を無理にふりしぼって言葉を出してみたものの、声が震えてしまったという状況。管理人なんて幽霊とかに関係なくとも、少し緊張しただけで声が震えてしまいますからね。


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