阿刀田高「脳味噌通信」☆☆

阿刀田高のエッセイ集です。

なかなか面白いけれども、テーマを決めてきっちり書いたエッセイと、書く内容に困って無理やり仕上げた(と思われる)エッセイとの間にかなりの落差がありますが、じっくりと考えさせてくれるエッセイあり、笑わせてくれる内容ありで、作者の力量がわかる作品です。


管理人が面白いと思ったのは、

「女ごころ」は、田舎から家出して男のアパートに転がり込んできた女性のこと。
男はこの女のことが好きで好きでたまらなかったので、感動してしまって体に触れる事も出来なかった。何日か経って女の両親が娘を引き取りに来て、後日正式な話を決めるということでひとまず娘は田舎に帰るが、結局違う男のところに嫁いでしまった、という話。
管理人などは古風で純情な男に共感しますが、著者が知り合いの女性にその話をしたところ、女にとってそういう男の態度は頼りないという風に映るのではないかと言ったという。そういう感覚の違いを書いています。

「リトマス試験紙」は、科学者志望だった少年時代の著者が科学実験で色々な事を学んだという話。
実験用のキットを使って色々な実験をしてみたけど、実際にやってみるとテキスト通りにいかない事も多い。リトマス試験紙にしても、赤・青の判別が付きづらい紫になってしまったりする事が結構あった。
確かにそうだよね、世の中はそんなに白黒が簡単につくようなことは少ないんですよね。

「がまん比べ」戦争で塹壕に閉じ籠もってドンパチやっている時、さぁ突撃だとなった時に最初に飛び出す兵隊は、十中八九集中砲火を浴びて死ぬそうです。
兵隊は体験的にそれを知っているから、みんなすぐには飛び出さないけど、結局は誰かが最初に飛び出す。
それは精神的に弱い兵士だそうです。やっぱり精神を鍛えるのは大切だけど、でも持って生まれた性格というものもありますしね。

著者の経験を踏まえた「ほめ言葉」、女性を褒める時には徹底的に褒めなくてはいけない。けなしてから褒めるなんていうテクニックは女性には通用しないそうです。
著者は目が綺麗な女性に「君は足は少し太いけど、でもとっても綺麗な目をしているね」と言って、女性を怒らせた事があるそうです。
その女性は目が綺麗だと言われたことは忘れたのに、足が太いと言われたことは年月が経ってもけっして忘れなかったとか。
素直に褒めるのが照れくさくて、ああいう言い方をしてしまいがちですが、それはNGだそうです。管理人も思い当たります。
どこかの誰かが言った名言「美女と醜女は知性をほめられたがり、普通の女は容姿をほめられたがる。」

立派なのし紙にくるまれた一升瓶を貰ったので、こりゃ一級酒かな?でも付き合いを考えたら二級酒かもと思って開けたら醤油だったという「おごりの技術」は落語みたいで可笑しかった。

こういうエッセイを読むと、この方は本当に好奇心があって、普段から色々な事を考えているようで、作家というのはこういう資質が大切なんだろうなと、改めて思います。


このページの先頭へ