阿刀田高「壜詰の恋」☆☆
阿刀田高の11篇のブラック・ユーモア短編集です。
表題作「壜詰の恋」は別にブラックでもなく、何となく星新一を思わせるような作品です。「ノワール・ノワール」という名の香水が、希少価値のあるものからありふれた品になった途端に、その香水と繋がる思い出の女性がありふれた女性になってしまったというだけの他愛のない話ですけど、作者の手にかかると読ませる作品になるところが流石です。
「姉妹抄」は、姉の恋人が昔自分を騙した男に似ているという話。
「追われる男」は交通事故を目撃した男性が、夜道を歩いていると鳥打帽をかぶった男に追いかけられるという話で、ある意味不気味な話です。
「冷たい関係」は意外なラストシーンですけど、その伏線が最初の数行に書かれてあるところに阿刀田高の職人芸を感じる作品。
他にも過保護な男性の物語「長距離ランナー」、夫婦の幻想を描いた「夫婦の休日」、微妙な不条理を感じる「賢者の贈り物」などなど。
「魔除け」のようにブラックな話かと思いきや、何となく平和な感じに収まる作品があるのも良いですね。
阿刀田高のブラック・ユーモアは、怖いんだけどどこか可笑しげなところが有って好きです。
ただこの短篇集は、結末が何となく想像がつく作品が多かったような印象です。