阿刀田高「マッチ箱の人生」☆☆

マッチ箱の人生

全部で13篇の作品が掲載されている、ブラックユーモアに溢れた独特の味わいがある短篇集です。


利口な女10人と付き合うよりバカな男一人と付き合う方がプラスになると考えて、どうしようもない男と付き合った結果、ある点だけがプラスになったという結末にニヤリとしてしまう「プラスの関係」は、タイトルの付け方がとても上手いですね。

「熱病」は半村良とかも好きそうな設定という印象です。
椿の喬木が立ち並んでいる角に白と黒の横縞のマンションが現れ、心の奥底にある願望を叶えてくれるが、その直後に熱病に冒されてしまう。毎日の生活の中に何気なく入り込んでくる不思議な夢の描き方が上手い。

「嫉妬」は男と女、女と女の心の機微を巧みに描いた作品。

「マッチ箱の人生」は、とある殺人事件を調べる飲み屋のママが、犯人と目されるホステスの境遇を知って、という話ですが、内容的には大した事なくても書き方次第で随分と作品の味わいが変わります。

「坂道の女」は阿刀田作品にしては物足りなさを感じました。途中でどんな風に展開するか想像がつきますし、表現も普通でした。

「未亡人」ももっとブラックユーモアを感じるような作品にしたほうが良かったと思いました。

「黒い電話機」は親不孝の典型のような娘が登場して、概ね想像した通りに物語が進んでいきますけど、オチがなかなか良かったですね。


阿刀田高の作品を読むと、この人は本当に短編の名手だなぁと思います。特に都会人の心の襞を皮肉っぽく描く力がスゴイですね。


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