山本周五郎「大炊介始末」☆☆☆
「ひやめし物語」「山椿」「おたふく」「よじょう」「大炊介始末」「こんち午の日」「なんの花か薫る」「牛」「ちゃん」「落葉の隣り」を収録した時代短篇集です。
新潮文庫版ではありませんが、ここに収録された作品の殆どを高校生の頃に読みました。
今でも時折読み返して、しみじみと山本周五郎はやっぱり良いなぁと思います。
個人的には、山本周五郎の小説を読んだことがない人に勧めるなら、この短篇集が一番ではないかと思います。
中でも管理人が好きなのは、「ひやめし物語」「よじょう」「落葉の隣り」です。
「落葉の隣り」は、繁次と参吉、そしておひさという貧しい長屋住まいの三人の幼馴染の物語です。
主人公は繁次、実直な繁次は指し物職人を目指しています。
そして小さい頃から同じ長屋に住む五歳年下のおひさの事が好きでしたが、おひさは繁次の友達の参吉の事が好きなんだろうと思い込んでいます。
それというのも、地味な繁次と比べて参吉は華やかな親分肌の少年で、繁次は参吉に少し憧れのような気持ちを抱いていました。
当然繁次の後を追いかけてくるおひさも、参吉の事が好きなんだろうと思っていました。
そんな子どもたちも成長し、繁次は指し物職人としての腕を上げていきますが、参吉は仏具師に奉公したり、蒔絵職人を目指すと言ったりして、大きな夢を語る割には生活が落ち着きません。
参吉はもうダメか、と思った繁次はおひさに自分の気持ちを打ち明けようとするのですが・・・。
実直な繁次が唄う端唄、あんたは声がいいねぇと女将にも言われるが「落葉に雨の音を聞く、隣りは恋のむつごとや ・・・・」という端唄の切なさ。
しみじみと落ち葉の音を聞くような作品です。