山本周五郎「赤ひげ診療譚」☆☆☆
3年間の長崎遊学から戻った幕府御番医の跡継ぎ息子・保本登は、許嫁のちぐさが別の男の元に嫁いだことを知らされ気持ちが沈んでいた。
そんな登を幕府の小石川養生所の医長・新出去定が呼び出し、養生所の医員見習い勤務を命じる。
赤ひげと呼ばれ強面であるが、その実患者のことを考えている新出去定は、見習い医師の登を甘やかさずにこき使う。
長崎で最新医療を勉強し御典医になるはずが、行くあてのない貧民の面倒を見る破目になったことで登は腐り、裏切られた自分の不運を嘆き、養生所で燻っている落ちこぼれ医師・赤ひげに使われることに反発する。
しかし赤ひげと共に恵まれない人たちの治療を行い、様々な人間・人生に触れる事で、登は人間として医師として成長していくのだった。
医は仁術を体現するような医師と、周囲の人達の計らいでその弟子となった若い医師。
しかし物語はそういう医師たちの姿を描くというよりは、プライドが高く傷ついたエリート青年医師が、自分の未熟さに気がつき、自らの力で立ち直り、尊敬する人物の後を追って医道に目覚めていくという青春物語になっています。
今や古典となった人情物の時代小説の傑作で、やっぱり山本周五郎作品は良いなぁとしみじみ思う時代小説です。