三浦しをん「風が強く吹いている」☆☆☆

風が強く吹いている

仙台から東京の寛政大学に入学するため上京した蔵原走は、親からの仕送りを使い果たしてコンビニでパンを万引きし、その逃走中に寛政大学4年生の清瀬灰二に抜群の走力を見込まれて、灰二が暮らしているボロアパートの竹青荘に住まないかと誘われる。

家賃の安さに惹かれて竹青荘に住むことにした走は、竹青荘で暮らす8人の寛政大学生に紹介されるが、走が入居したことで10人となった竹青荘の住人に対して、灰二はこのメンバーで箱根駅伝を目指そうと語りかける。

まともな陸上経験者が走と灰二しかいないメンバーを見て、初めは冗談半分だと思っていた走や竹青荘住人たちだが、灰二の合理的な指導で徐々に力をつけていき、いつしか本気で箱根を目指すようになるのだが・・・。


優れたランナーだったが高校時代に故障した事から陸上競技から離れた灰二と、驚異的なスピードで陸上の名門校のエースランナーだった走以外は、素人ぞろいのメンバーが集まって、箱根駅伝に出場するというスポーツ小説です。

まともに走ることもままならない大学生が、陸上競技に四六時中打ち込んできた選手たちと勝負できるはずもなく、現実にはありえない話だと思いますけど、そんな事は百も承知で楽しめる青春小説になっていると思います。

青春小説の醍醐味は成長するということで、この作品ではランナーとしても人間としても未熟だった蔵原走の成長、更に駅伝メンバー全員がただ走ることによって変わっていく姿を描いています。

誰か一人でも欠けたら全てが無になる駅伝という競技の厳しさの中で、ギリギリの人数ながらお互いを信じ、自分の全てを出し切ろう頑張り抜く青春群像が感動的です。

中でも故障を抱えながらも、ランナーとして中途半端なままでは終わりたくないと全霊を傾ける清瀬灰二の疾走には、悲壮感と共に独特の清々しさを感じました。良かったです。


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