池波正太郎「闇の狩人」☆☆
金持ちから盗んでも殺しはやらないという昔ながらの盗賊「釜塚の金右衛門」の子分・雲津の弥平次は、湯治に出かけた山奥の温泉で、刺客に襲われて怪我を負い記憶を失った若い浪人を救った。
温和でありながら凄腕の剣客でもある若侍は、弥平次に谷川弥太郎と名をつけられて江戸に向かい、湯治を終えた弥平次もまた江戸に向かった。
時は過ぎ、大盗賊・釜塚の金右衛門が死んで、弥平次は盗賊の世界から足を洗い恋女房おしまと二人で静かな余生を送ろうと考えていた。
しかし金右衛門の跡目を争う盗賊団の幹部・五郎山の伴助と土原の新兵衛の抗争に巻き込まれてしまう。
一方、記憶を失ったまま江戸に出た谷川弥太郎は、江戸の暗黒街で大きな力を持つ香具師の顔役・五名の清右衛門に拾われ、清右衛門に敵対する者たちを暗殺する「仕掛人」となっていた。
武家のお家騒動と暗黒街の顔役の権力闘争、それに盗賊の跡目争いなどを絡めて、仕掛人梅安シリーズや鬼平犯科帳シリーズの良さをミックスしたような雰囲気があるピカレスク・ロマンでとても面白い作品です。
人生の達人が書いた娯楽時代小説という趣きがあり、悪役が悪人とは限らず、善役が善人とは限らない、世の中の味わいを巧みに表現しています。
筋書きが一直線ではなく単調でなく、それでいて読んではぐらかされた感じを受けないところがまた上手い。
池波正太郎らしい達者な物語でした。