池波正太郎「剣客商売」☆☆☆

剣客商売

剣術道場を閉めて引退し、手伝いに来ていた若い百姓娘を後妻にして悠々自適の生活をおくる秋山小兵衛は、その名の通りなりは小さいが江戸でも名うての無外流の達人。

その息子の秋山大治郎は、性格は実直で温厚ながらも諸国に剣術修行に出向いて腕を磨いてきた若き剣客。

この二人の剣の達人が、老中田沼意次の知己を得て、江戸の町で起こる様々な事件に立ち向かう姿を描いた、時には飄々とした、時には活劇が素晴らしい傑作時代小説です。


池波正太郎の時代小説シリーズでは、鬼平犯科帳シリーズや必殺仕掛人シリーズなど面白い作品が沢山ありますけど、火付盗賊改方と盗賊、殺し屋の世界が主な舞台となると、どうしても殺伐とした雰囲気が強くなるのは否めません。

その点この作品には、もう少しお洒落で小粋で人情物のような雰囲気があります。

何と言っても、主人公の秋山小兵衛が酸いも甘いも噛み分けた小粋な老剣客で、難事件を見事にさばいていく様や、無粋な息子大治郎を突き放しているようで、実はそっと見守っているような情愛が、還暦を迎えた管理人には真似はできずとも勉強になります。

そうした父の思いに答えるかのような若き剣客大治郎の、自分はまだまだ未熟者と思い定めて修行に打ち込む立ち居振る舞いが、読んでいてとても心地良い気分です。

それに加えて、大治郎と田沼意次の妾腹の娘で男勝りの剣術使い佐々木三冬との恋などが描かれていて、何となくほんわかするような作品になっています。

一刀流の達人で、自分より弱い者の妻になる気は無いと肩肘張って生きてきて、初めのうちは秋山小兵衛に憧れていた三冬が、いつの間にか大治郎に好意を抱いていく古風な有り様が管理人は好きです。

剣客商売シリーズは文庫本で全16巻、番外編の長編が「黒白」と「ないしょないしょ」の2編ありますが、池波作品の中でも一番読みやすい時代小説だと思います。

 

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