藤沢周平「三屋清左衛門残日録」☆☆☆
管理人がこの作品を初めて読んだのはいつ頃だったか・・・。
30代になっていたでしょうか。当時はまだ老いは間近の問題ではなかった。
しかし最近では老眼も進み、髪は白く薄くなり、体力はなくなり、食は細くなりと確実に老化が進んで、しかもそれを自覚する日々です。
この作品は面白い。
まだ若い頃に読んでも面白かったけど、しかし自分自身が老境に差し掛かった時に読むと、また読後感は違ったものがあります。
用人という要職に付いていた三屋清左衛門は、特に家格が高かったわけではないものの、篤実で有能であったため順調に出世し、前藩主の死去に伴って役職を辞して江戸から国元に帰る。
新しい藩主は清左衛門に思いの外好意的で、普通は許されない隠居部屋を作ることを認めてくれた。
妻は既に亡くなっているが、家督を継いだ息子はなかなか良い嫁を貰い、夫婦とも清左衛門の面倒を甲斐甲斐しくみてくれる。
しかしそうした恵まれた生活をしていても、隠居した寂しさがときおり清左衛門を襲う。
昔からの友人たちと語らい、若い頃に戻って剣術の道場にならい、学問所に通ってみても、そういう気持ちは仕方がない。
彼は思う。どのような事があろうとも、人間は死ぬその時まで、いつも前を向いて生きていかねばならぬと。
潔い生き方です。
権力争いに明け暮れる藩の重臣たちとは随分と違います。
そういう三屋清左衛門の毎日や、時に思い出す若かりし頃の日々なども織り交ぜながら、季節感豊かに描かれた時代小説の傑作です。
管理人もこのように歳を重ねていきたいと思わせてくれるような作品です。
・・・しかし、この三屋清左衛門は老人といっても50歳を越してそう何年も経ったわけではないのですけどね。