司馬遼太郎「空海の風景」☆☆

空海の風景

讃岐国(香川県)で幼少の頃から神童のような才能を現していた真魚(空海)は、京の都に出て大学寮に入り様々な学問に触れるが、その後に仏教の中でも秘術とされる大日如来を中心とした「密教」と出会い、その奥義を学ぶべく遣唐使船に乗る。

長安の都で密教の第七祖である青竜寺の恵果和尚に学び、恵果から真言密教の灌頂を受けて帰国した空海は日本で真言密教を確立していく。


第32回(昭和50年度)の芸術院恩賜賞文芸部門を受賞した、真言宗の開祖である弘法大師空海の思想と生涯を描いた歴史小説です。

一応は小説ですけど、あまり小説らしく感じないのは、会話の部分が非常に少なかったからだと思いますし、会話文も直後にそう言ったであろうと思うというような注釈的な文が付いていたりして、やや評伝みたいな印象を受けてしまいました。

会話が少なく、登場人物は歴史上存在していた人たちばかりで、その性格もあまり断定的に描かれていないので、ますますそんな印象を受けます。

他の司馬遼太郎の小説のように、登場人物が本当にこんな風だったと思わせてくれるような生き生きとした感じが、この作品からはあまり伝わってきませんでした。

主人公の空海の人物描写もどこか焦点がぼやけて感じるのは、対象の存在があまりにも大きく、断定的に描きづらいからでしょうか。

しかし難破しながら唐土にたどり着く時の様子とか、同時代のもう一人の偉人最澄との比較の仕方などは、流石に司馬遼太郎と感じます。

しかし一種の怪人として描かれる空海に比較して、最澄は常識人で人が良くて、どうも最澄の方に親近感を抱いてしまうのは仕方がないか・・・。

 

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