ロバート・A. ハインライン「月は無慈悲な夜の女王」☆☆☆

月は無慈悲な夜の女王

地球政府が月世界を流刑地兼植民地として搾取している2076年の未来社会が舞台。

地球の圧政に不満を抱く月世界の住民たちが、コンピュータ技術者マニーと自意識を持つコンピュータ・マイクの主導で、7月4日に地球に対して独立を宣言し、独立戦争を始めるという物語です。

アメリカの独立宣言公布が1776年7月4日ですから、当然ながらこれを意識しているわけですし、月世界の状況が独立前のアメリカとよく似ているという設定なので、アメリカ人は素直に感情移入できる作品だろうと思います。

まともな軍事力を持たずに地下に潜ったレジスタンスが、どのように独立戦争を勝利に導いていくのかというのが本題ですけど、この独立戦争に大きな戦力となるのが、意識を持つようになった巨大なコンピューターのマイクです。

実質的に月世界の独立はマイクなしでは出来なかった。

そのスーパーマンのような、全知全能の神のような存在のコンピューターが、ある意味子供っぽくて、変なプライドと奇妙なユーモアを持っている個性豊かな存在だというところが面白いですね。

これ程の能力があると、一歩間違えれば人間にとって相当な脅威になるところを、愛嬌すら感じる魅力的なコンピューターという存在にした点が素晴らしい。

何しろ作品が書かれた時代を考えれば、そういうAIの創造自体にハインラインの先進性を感じます。

また革命の組織づくりとか、月世界における家族制度・結婚制度とかにも、ハインラインのリベラルで柔軟な思想を感じます。

「宇宙の戦士」の影響があるのか、ハインラインを右翼的だという人がいますが、彼の場合は力を伴わない正義は存在し得ないといったアメリカ的な現実主義者の側面がありますが、全体的にはリベラルな考え方をする作家なんでしょうね。

結末にも現実的な余韻があるハインラインの傑作SF小説で、流石にヒューゴー賞受賞作だと思います。


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