上橋菜穂子「鹿の王」☆☆☆

鹿の王

故郷を守るために自らの死を賭して戦う戦闘集団・独角。深い森林や断崖を駆け回る飛鹿を巧みに操る独角の頭ヴァンは、巨大な東乎瑠(ツオル)帝国との戦に破れ、捕らえられ、アカファ岩塩鉱の地下深くで奴隷として駆使されていた。

ある夜、謎の獣が岩塩鉱に現れ、鎖でつながれた奴隷たちを次々と襲っていく。

ヴァンも獣に抵抗したものの、武器もなく体力も落ち、鎖に繋がれた身では戦う術もなく、謎の獣に噛まれて気を失う。

一夜が明け、鉱内に謎の奇病が発生し仲間の奴隷たちが次々と死んでいく中で、何故か一人だけ病から回復したヴァンは地上に脱出し、奴隷と同じ病で死に絶えた監視人たちの中で生き残っていた幼女を見つけて共に旅立つ。

一方、東乎瑠帝国に仕える医術師のホッサルは、謎の病で岩塩鉱にいた人間が全滅したとの報を受け、かつてオタワル王国滅亡の原因となった黒狼熱との関連を疑い、その調査のために岩塩鉱に出向いた。


獣に噛まれた事から不思議な力を得た独角の頭ヴァンと、病の治療と医術の研究に命をかける権力者の医術師ホッサルの二人を主人公にした第12回(2015年)本屋大賞受賞の傑作ファンタジィ小説です。

強大な帝国に支配された国々、帝国の政策によって半強制的に新しい版図に移住させられる人々、その移住民が引き起こすトラブルと地元民の反感、有効な治療法が見つかっていない感染症、帝国に敵対する王国の侵攻、帝国内での政治的な駆け引き、等々が物語の下敷きになり、そうした中で生きるということ、死ぬということ、生き物の体の不思議、人間の心の矛盾などを巧みに描いています。

ファンタジィですけど、単純な冒険物語とは少し違う、もっと奥のある哲学的なものを感じさせる示唆に富んだ作品だと思います。

かと言って理屈に流れているわけでもなく、物語は二転三転してエンターティメントとしても楽しめます。

ラストも落ち着く所に落ち着きそうで、面白い作品でした。

 

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