上橋菜穂子「獣の奏者」☆☆☆

獣の奏者

竜をイメージした凶暴な闘蛇、おそらく鳳凰をモデルにした気品ある王獣などの動物たちと、彼らを飼い慣らした上で君臨する王国の権力闘争などを見事に描いた、独特の世界観を持つ異世界ファンタジィです。

ジュブナイルですけど大人が読んでも充分に楽しめる作品です。


リョザ神王国の僻地、闘蛇を飼育する闘蛇衆の村に生まれた少女エリン。

村長の息子だった父親は異国の女性ソヨンと恋に落ち、周囲の反対を押し切ってソヨンと夫婦となり、彼女を獣ノ医術師として村に住まわせ一人娘エリンを得たものの若くして亡くなった。

夫を亡くしたソヨンとエリンの二人は、よそ者を歓迎しない排他的な村のなかで浮いた存在だったが、ソヨンの獣ノ医術師としての技量は高く、闘蛇衆から一目置かれていた。

そんな中、村で飼育している戦闘用の闘蛇<牙>が何頭も死ぬという事件が起こり、獣ノ医術師として責任を取らされたソヨンは闘蛇の住まう池に投げ込まれてしまう。

母を助けようと池に飛び込んだエリンも闘蛇に襲われるが、それを見た母ソヨンは彼女の故郷の一族に伝わる不思議な術を使って闘蛇を操り、エリンを闘蛇の背に乗せて救うと自らは死んでいく。

闘蛇により遠い見知らぬ山奥に運ばれたエリンを助けてくれたのは、豊富な知識を持つ謎の蜂飼いジョウンだった。

ジョウンに教え導かれて様々なことを学んだエリンは、秘境の空に舞う美しい野生の王獣に出会い、獣ノ医術師になることを決意してジョウンの知人エサルが教導師長を務めるカザルム王獣保護場に入舎する。


全4編から成る「獣の奏者」ですが、作者の当初の考えでは闘蛇編と王獣編で完結する予定だったらしい。

実際に物語はこの2作で完結するように結ばれています。

残りの2作は後日談のような話となっていますが、個人的にはなくても良かったような気がします。(但し後半の2作で様々な謎が解明されていくのですが・・・)

誰にも懐かない野生の王獣と心を通わせるエリンが知る王獣と闘蛇誕生の秘密、そして「決して人に馴れない獣、決して人に馴らしてはいけない獣」である王獣を操る事による災い、本来相容れる事が許されない人と獣の関係などは、何やら野生のエルザから続く野生動物と人間との関係に対する考察につながるテーマのように思います。

才能溢れる少女の獣との交流や成長物語というだけでない、もっと奥深いテーマを持ったファンタジィで、世界観がしっかりしているので物語に重みが有りますが、4作通して読むと、とても面白い作品ですけど子供には少々難しいテーマを含んでいるような気もします。

   

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