西條奈加「上野池之端 鱗や繁盛記」☆☆
13歳の小娘お末は、従姉妹が奉公していた上野・池之端の料理屋「鱗や」に奉公することになった。
伯父も江戸から来た男も良い店だと話し、お末は期待していたが、「鱗や」は吝嗇でやる気のない主人一家が商う、料理も店構えも接客も、料理屋とは名ばかりの連れ込み宿のような三流以下の店だった。
従姉妹が店の金を盗んで男と駆け落ちしたと責められ、給金もまともに支払われずに働かされるお末を庇ってくれたのは、養子に来てまだ間がない若旦那。
美味しい料理や心のこもったおもてなしでお客様が喜ぶ顔を見たいと話すお末に、優しくて行動力のある若旦那は、一緒に「鱗や」を昔のような江戸の料理屋番付に載るような名店にしようと話す。
細腕繁盛記とは少し違いますが、寂れた料理屋を生まれ変わらせようと奮闘する人たちを描いた人情時代小説です。
人情物というだけでなく、何やら訳がありそうな若旦那の秘密や、名店だった「鱗や」が荒んでしまった理由なども交えて話が進みます。
どこか夢物語的でリアリティは薄いですけど、独特の味わいがあります。
登場する人物は好人物だけではありませんが、全体的には明るい雰囲気が漂う時代小説で面白かったです。