宮下奈都「羊と鋼の森」☆☆☆
北海道の奥地の小さな集落に生まれた僕・外村は、将来の目標もなく熱中するものもなかった高校生の時に、高校の体育館のピアノを調律に来た板鳥さんの音に感動して、自分もピアノの調律師になることを決めた。
本州の調律師養成の専門学校に進学して基礎を習得した外村は、板鳥さんが働く江藤楽器に就職して、先輩調律師の柳の助手として個人宅のピアノの調律を手伝いながら、調律師としての道を切り開いていく。
物語はとてもシンプルで、大事件が起るわけでもなく、驚くほどの天才が出てくるわけでもなく、意地の悪い敵役やとんでもないライバルが登場することもなく、ロマンスがあるわけでもなく、自分が歩むと決めた道を一歩一歩前進していく青年の真摯な姿を、主人公の一人称で描いた青春小説です。
しかしそれが到って心に訴えるものがあって、久しぶりに読むのが止まらなくなりました。管理人はこういう人が成長していく物語が好きなようです。
主人公の青年はピアノも弾けず、絶対音感があるわけでもなく、調律の技術はまだ未熟で、技術を習得する能力が高いわけでもないごく普通の青年ですが、ピアノを弾く人・聴く人の事を考えて、自分に出来るベストの仕事をやろうと心がけています。
天才が出てくる物語ではなく、優れた職人たちが登場する物語で、でも世界を裏側で支えているのは、こういう地道な努力で自分の道を切り開いていった人たちなんだろうと思うと、やっぱり世の中は素敵なものだなぁと思います。
そんな風に思わせてくれる、2016年の本屋大賞の受賞作です。