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ミネット・ウォルターズ 「女彫刻家」の感想です。

ミネット・ウォルターズ「女彫刻家」☆☆☆

女彫刻家

ノンフィクション作家のロザリンド・リー(ロズ)は、エージェントから無期懲役囚を題材にしたノンフィクションを書くことを勧められる。

夫の裏切りとその後起こった出来事から精神的に落ち込み、何も書けない状況に陥っていた彼女に対する最後通報のような依頼を受け、ロズは気が進まないながらも刑務所に向かった。

作品の題材となる懲役囚は、8年前に母と妹を殺害し、その後で二人の死体をバラバラに切り刻んで、その部位を並べ替えるという猟奇殺人を犯したオリーヴ・マーティンという女性。犯行を自白して弁護人を拒否した彼女は、精神鑑定では正常だと判断された。

大柄で異常に太った体型のオリーヴは表情もなく、ロズはオリーヴに心のなかで怯えながらも彼女へのインタビューを試みるが、オリーブは事件に関しては頑なに口を閉ざす。

彼女は異常な殺人犯だと思いながらも、弁護士や警官、近所の人たち、彼女が通っていたミッションスクールの教師などに取材するが、その度に湧き上がる疑問。

大柄で鈍重で友人もなく、嘘つきで気味の悪い娘と周囲から見られていたオリーブに対して、犠牲者となった妹のアンバーは美人で可愛くて誰からも好かれていた。

オリーブは母や妹との関係が日頃から悪く、あの日ついに爆発して犯行に及んだという自白書を提出している。

しかしロズがマーティン家を知る人たちに聞き取り調査を始めると、誰もがオリーブはアンバーを可愛がり、二人はとても仲の良い姉妹だったという。

オリーブは本当に殺人を犯したのだろうか?


「羊たちの沈黙」を引き合いに出されるようなサイコ・サスペンスの傑作という前印象で読みましたが、それとは随分と違った雰囲気の作品でした。

本のあらすじを読むと、懲役囚は30代から40代の痩せ型でひっつめ髪をした神経質そうな芸術家肌の女性を思い浮かべますが、実際はまだ20代で歩くのも大儀そうな太った女性です。

また犯行の描写などがほとんどなく、血なまぐさい感じやサイコサスペンス特有のぞくぞく感は管理人は感じませんでした。

ロズが調べを進めるうちに浮かび上がる真実、角度を変えてみると違う景色になる家族の情景、それにロズとこの事件を担当した元警察官とのロマンスなども描かれていて、暗く落ち込む気分になるようなミステリィではありません。

さすがにNWA賞を受賞しただけの事はあるミステリィで面白い作品でした。