重松清「ナイフ」☆☆☆
家族愛といじめを主題にした5編の坪田譲治文学賞受賞の短編集です。
「ビタースィート・ホーム」以外は、学校内でのいじめの問題が取り上げられていますけど、それぞれの作品で視点が少しずつ違っています。
ただ全体に共通しているのは、誰もが大した理由もなくいじめられているという事と、いじめられている本人は、いじめの事実を大人に告げたりするくらいなら死んだほうがマシというくらいに思っている事、そしてそれが当然だと被害者・加害者も含め誰もが思っているように描かれている事です。
しかしちょっと待てよ、と管理人は思ったりします。
ここに書かれているイジメは、結構深刻な状況の話が多いよね。
昔の長閑な雰囲気がどことなくあって、全員参加型とは少し違うイジメを描いた「エビスくん」以外は、相当深刻な状況だと思います。
そういう深刻な状況下で、他者の手を借りずに当事者の子供たちだけで何とかなるのかと言えば、それは無理なんじゃないかと思います。
それでも最後は本人が何とかしなくちゃいけないんだ、というようにも取れる作者の語り口には、多少の違和感を感じました。
勿論それは正論だと思いますが、実際には何とか出来ずに自殺してしまう子供たちが多いのが現実なんでしょうね。
人間って大人も子どもも、そんなに強くはないと思う。
チクるのは最低・・・かもしれないけど、でもそれは違うと管理人は思います。
大人が介入するとこじれる・・・というのも事実かもしれないけど、加害者側に対する罰が成り立たないと、結局は気の優しい子は生きていけない社会になっていくように思えます。
いじめる子もストレスが溜まっている・・・これも事実かもしれないけど、子供を見守る大人たちが、そこに逃げてはいけないような気がする。
この作品の中では、いじめられている子供たちが頑張っていますから前向きなんですけど、イジメで自殺する子が後を絶たない現実を見ると、理想論で対処するのは難しい問題だし、現実にイジメられている子どもがこの作品を読んで元気づけられるとも思えません。
では、どんな風にしたら良い作品になるの?と問われると返答できないのは残念ですが・・・。
暗くせずに話をまとめた、管理人が好きな類の小説のはずなんですけど、そんな事の方を感じてしまいました。