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三部けい「僕だけがいない街」の感想です。

三部けい「僕だけがいない街」☆☆☆

僕だけがいない街

宅配ピザ屋でバイトする売れない漫画家の藤沼悟には不思議な能力があった。

何か事件が起こる予兆を感知すると、彼の意思とは関係なく同じ時間を何度も繰り返し体験する。

悟が再上映(リバイバル)と名づけたこの現象は、事件を未然に防ぐか何らかの変化が起こるまで繰り返される。

事件を防ごうとした悟は怪我を負い入院するが、その悟の看病に田舎から疎遠だった母親が駆けつけてくる。

シングルマザーで一人で悟を育て上げた母親との再会をきっかけにして、悟は18年前の彼のクラスメートも犠牲者となった小学生・連続殺人事件の事を思い出す。

しかしまるで悟が殺されたクラスメートの事を思い出した事がきっかけのように、彼の周囲で様々な事件が起こり始め、そして悟は殺人事件が発生する直前の小学生だった自分に精神のみがタイムスリップするという再上映現象が発生してしまう。

忘れたようで忘れられなかった事件。小学生だった悟にはどうしようも出来なかった事なのに、何故か後悔の念を感じているこの事件こそが全ての始まりなのか?

悟はクラスメートの少女殺人事件を未然に防ごうと試みるのだが・・・。


2014年7月時点で第4巻まで発行されていますが、まだ未完の状態です。18年前の殺人事件の犯人も、悟が巻き込まれた事件の真相もまだ闇の中ですが、それにしても良く出来た物語です。

何も知らなかった少年の頃と違って、大人になった悟には当時は見えていなかった景色が理解出来ます。

殺害された少女の家庭環境、担任の教師の考え、自分が母とどういう関係だったのか。ただのサスペンスというだけでなく、そういう微妙にノスタルジックな雰囲気も感じさせながら、小学生の少年に戻った青年がクラスメートの少女が殺害されるのを何とかして防ごうと奮闘する物語。

思い出が現実となり事件を防ごうと奔走する悟と、18年後の現在も社会に潜んでいる狡猾な殺人者を対比させて、今後の展開がとても気になるサスペンスに富んだ作品です。


全9巻で、この作品は無事に完結しました。正編は1巻から8巻まで、9巻は後日談のような作品になっています。

Kindle版で購入して何度か読み直していますが、よく練られた作品だと思います。

改めて始めから読み直してみると、単なるSFサスペンスを超えた人間賛歌のような主題のコミックで、読み応えがありますね。傑作だと思います。