隆慶一郎「影武者徳川家康」☆☆☆
慶長五年の関ヶ原の合戦で、東軍の総大将・徳川家康は西軍の軍師・島左近が手配した忍者・甲斐の六郎により暗殺された。
しかし徳川方は家康の影武者・世良田二郎三郎を家康に仕立て、二郎三郎はまるで本物の家康のような采配で見事に天下分け目の合戦に勝利する。
戦に勝とうとも、影武者は影武者で本物の家康ではない。本来であれば家康の死を布告して、徳川家を跡継ぎの秀忠に受け継ぐべきであった。
しかし肝心の秀忠は、功を焦るあまりに勝手に寄り道した信州上田城攻めに時間を取られて、関が原の合戦には間に合わなかった。若く未熟な秀忠に人望はなく、この状況での家康の死は徳川家の存亡に関わる。
かくして二郎三郎は影武者を続け、暗愚ではあるが権力欲の強い家康の後継者・秀忠、徳川の行く末を危惧する重臣たち、大阪城に残る豊臣秀頼と豊臣家に恩顧がありながら三成への反感から東軍に組みした大名たち、家康が影武者であることを知る島左近と甲斐の六郎などが交差する影の闘争が始まる。
隆慶一郎の作品は彼独自の歴史観に基づいて世界を構築していて、なかなか独特で面白い。
家康が影武者だったという設定ですが、影武者といっても只のお飾りではなく、武芸に秀でて頭のキレる男が主人公になっていますので、感情移入もしやすく、この窮地をどう超えていくのか、ついつい応援したくなるような物語です。
徳川秀忠と柳生宗矩は完全に敵役で散々に書かれていて少々お気の毒ですけど、しかし徳川家内部での確執・権力闘争なども物語としては良く出来ています。
何だかこれが事実で、徳川家康は本当に関が原の合戦で死んでしまい、それからは影武者が徳川家康として采配を振るったんじゃないかと思ってしまうような説得力を感じさせる筆力が素晴らしい。
実際に隆慶一郎自身は、あとがきを読むかぎり、ある程度はこういう事もあり得たのではと思っていたみたいですが・・・。
管理人にはあまりに奇抜な説なので史実としては捉えられませんけど、色々な資料を調べてこういう発想した隆慶一郎は、頭が柔軟だということですね。
60歳を超えてから作家になって、この出来栄えの作品を書き上げるのですからすごい人です。