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東野圭吾「魔力の胎動」の感想です。

東野圭吾「魔力の胎動」☆☆

魔力の胎動

自然現象を見事に言い当てる、彼女の不思議な“力”はいったい何なのか――。彼女によって、悩める人たちが救われて行く……。東野圭吾が価値観を覆した衝撃のミステリ『ラプラスの魔女』の前日譚。

自然現象を予測できる特異な能力の持ち主・羽原円華を主人公にしたミステリィ「ラプラスの魔女」の前日譚となる連作短編集です。


第一章「あの風に向かって翔べ」は、この連作短編で重要な役割を果たす鍼灸師・工藤那由多と女子高生の羽原円華の出会いが、スキージャンプ界のレジェンドとなった大ベテラン・ジャンパーのスランプ解消を巡る話として描かれています。

第二章「この手で魔球を」は、ナックルを投げる投手と、ナックルの捕球が出来ない捕手の物語で、他人に対して冷徹な対応をする円華の、実は繊細な思いやりが良く描かれています。

第三章「その流れの行方は」は、那由多の恩師となる高校教師・石部の発達障害を持つ一人息子が事故で植物人間状態となり、事故の責任を感じた石部の苦悩を円華の協力で晴らしていく物語。川に落ちた子どもを救えたのかという円華の考証が、ガリレオのようでした。

第四章「どの道で迷っていようとも」は、パートナーだった男性を山の事故で亡くした同性愛者の盲目の作曲家が、パートナーの死の原因は同性愛をカミングアウトした自分にあるのではないかと悩む話。円華と那由多により事故の理由が分かり、またこの作品で那由多の秘密が明かされ、「ラプラスの魔女」に少し近づきます。

第五章「魔力の胎動」は、「ラプラスの魔女」で活躍する大学教授の青江修介が登場し、温泉地に旅行で来ていた家族の硫化水素ガスによる中毒死の謎を追うという話で、この作品には羽原円華も工藤那由多も登場しません。


5篇のミステリィ短編集ですが、この作品には犯罪者も誰かの悪意も登場しませんので、穏やかな気持で楽しめると思います。